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さっきの少年だった。彼は照れ臭そうに自分へ頭を下げてきた。年は若いが背丈は充分に高く、渚は見下ろされるような位置だった。が、隣の男とは違って他人に威圧感を与えるような態度ではない。
「店員さん、耳大丈夫?」
「え、僕? あ、はい……」
耳鳴りは数回あくびをするとすっかり元の調子に戻った。さすがアイドルは、気配りも素晴らしい。名もなきスタッフの心配をしてくれる人の横で、愛想の悪い男は冷めた目つきでスープをのぞき込んだ。
「スープだけ? 珍しいね」
感心するというよりか、小ばかにしてくるような言い方に渚は神経を尖らせた。
「女子受けしそうな感じだな」
「……っ、どうも。ありがとうございます」
男に褒められていないことだけは分かった。少しアタマにきながら、興味ないなら早く立ち去ってくれと祈り、軽くメニューを紹介する。
男は黙って耳を傾けたのち、注文するでもなく、「こういうのが人気なのか」と言って渚を見つめた。
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