7.今世-苦手な人

2/4
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
 売れっ子アイドルに告白した身の程知らずな一般人男性――木住渚は、日常生活へ戻りつつましく労働にいそしんでいた。  仕込んだスープをバンへ積み込んでいると、紀平が低い声で話しかけてきた。 「前から思ってたんだけど俺、神庭って良くないと思うんだよね」 「……え、何が?」 「だ~か~ら。アイドルの神庭。ちょっと前に渚にやたら絡んできてた男。俺、あいつのこと気に食わないんだよね」  渚はびくりと身をこわばらせた。喋り方が、苛ついているときの神庭と似ているせいだった。おそるおそるオブラートに包んだ感じで切り返してみた。 「それは、つまり。紀平は神庭が嫌いってこと?」 「……ん、まあ。有り体に言っちゃえばね」  バックドアを閉める音が思いのほか大きく、びっくりした。 「げ、芸能人なんだから、勝手に嫌うぶんには、いいんじゃないかな……?」  この間信州の出張行ってもらったよね、と紀平は話を続けてくる。 「神庭とはどんなこと話したの?」 「どんな、って。そんな大したことは……。ってかどうしたの、紀平らしくないよ。根掘り葉掘り他人の会話を知りたがるなんて」
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!