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この男はなんなんだ。飲食店経営でもしようとしているのだろうか。雑誌の撮影現場でやたらスープ店の経営について質問をしてくるスパイみたいな女がいる、というのは従業員から聞いたことがあった。
実際にはこういう感じなのか、と警戒心をあらわにした。
「人気かもしれませんね……」
のれんに腕押し的な会話を続けていると、隣にいたメンバーが呆れたように声をあげた。
「神庭、飲みたいなら素直になりなよ」
そうなのか? 神庭を見ると、首元を掻き黙り込んでいる。何か言いたげに唇が動いていた。
新たにスープを注ぎ、湯気の立つ野菜コンソメを手渡す。
「……どうぞ」
神庭は礼も言わずに受け取り、静かに口をつけた。瞳の色が深くなった気がする。そして、スープを飲むには似つかわしくない、哀しそうな表情を浮かべた。心がぐわりと乱れ、渚は思わず息を止めてしまう。
予想だにしない反応に、渚はなんと声をかけていいかわからなかった。神庭は動揺しているようにも見えた。今まで「おいしい」と言う人はいれど、こんな風な反応を見せる人は初めてだった。
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