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憲太(けんた)は秋田に住む大学生だ。大学を卒業して、来月から東京の会社員だ。就職活動は大変だったけど、目標通り東京の企業に就職して、今日から東京に住み始めた。
憲太は人の多さに驚いていた。秋田とは全く違う。これが都会なのか。中学校で初めて行った東京、あの時の衝撃は今でも覚えている。こんなにも人が多いのか。あの時と同じ光景だ。だけど、東京には夢と豊かさがある。だからここで頑張っていこうと思えてくる。これからどんな日々があるかわからないけど、将来、豊かさを手に入れて、成長するんだ。
「今日から東京か。そして一人暮らしだ」
憲太は地下鉄の駅からしばらく入った狭い道路を歩いていた。どの建物も高いが、ここは数階建ての住宅やアパートが多い。健太の住むアパートはここから少し歩いた所だ。
「さみしいな・・・。だけど、これから頑張っていかないと」
憲太は寂しさを気にしていた。秋田からここに来た人は、僕ぐらいだ。話をする相手がいないのがつらい。だけど、早く話せる相手を見つけないと。
しばらく歩くと、2階建てのアパートが見えてきた。アパートは少し古くさそうだが、ここが両親が勧めたアパートだ。喜んで住まないと。
「ここが新居か。どんな日々を送るんだろう」
憲太は不安でいっぱいだ。だが、それを受けてめて、生活していかないと。
憲太は部屋に入った。部屋は4畳1間で、決して広くはない。だが、これが1人暮らしに最適なのだろう。
「これが新しい部屋か。楽しみだなー」
その時、電話が鳴った。母からだろうか? 新しい家に着いたかどうか電話をかけに来たんだろう。
憲太は受話器を取った。
「もしもし」
「憲太、着いた?」
「うん」
憲太はほっとした。母からだ。悪い奴の電話だったらどうしよう。
「新しい生活、気に入った?」
「うん」
憲太は気に入ったと答えたが、本当はそうじゃない。もっと立派な部屋に住みたいと思っていた。
「そう。これから頑張ってね!」
「わかった! じゃあね!」
電話が切れた。憲太はほっとした。入社式までは少し時間がある。少し飲んで、落ち着いてこよう。
憲太は近くの居酒屋にやって来た。その居酒屋は、少し古い外観で、焼き鳥がメインだ。店の前からは、焼き鳥のいいにおいがする。家具だけでお腹が空いてくる。
「ちょっと飲んでこよう」
憲太は焼き鳥屋に入った。焼き鳥屋には何人かのグループがいる。彼らは会社員のようで、スーツを着ている。自分も将来、彼らのように焼き鳥屋に来るんだろうか?
「すいません、1名様で」
「こちらへどうぞ」
店員は憲太を席に案内する。案内したのは、カウンター席だ。席に座った憲太は、すぐにドリンクを注文した。
「生中お願いします」
「はい」
店員は厨房の中に入った。注文を言いに行くと思われる。カウンターの前では、店員が焼き鳥を焼いている。見てるだけで食べたくなってくる。
「はぁ・・・」
憲太はため息をついた。これから大丈夫だろうか? ここでやっていけるんだろうか? 初めての東京住まいで、不安でいっぱいだ。
「これからどうなるんだろう」
憲太は寂しさを紛らわすために、酒を飲む。20歳で知った酒の味は、とてもおいしい。つらい事があっても、酒があれば忘れられる。
憲太は部屋に帰ってきた。部屋は暗い。そして寂しい。家族がいないだけで、こんなに寂しいと感じるんだろうか?
「誰もいないのか・・・」
「大丈夫?」
と、誰かの声がした。だが、誰もいない。気のせいだろうか? そう思いつつ、憲太は振り返った。そこには、おばけがいる。
「えっ、君は?」
「ここに住んでいた人」
ここに住んでいた人が今でもおばけでここにいるとは。だが、憲太は全く怖がらなかった。むしろ、可愛いと思っていた。
「もしかして、おばけ?」
おばけはうなずいた。やはりおばけのようだ。まさかここでおばけと遭遇するとは。
「うん。怖い?」
「怖くないよ。むしろ、可愛いから好き!」
憲太は笑みを浮かべた。こんなにかわいいおばけがいるアパートに住むなんて、最高だ。
「ありがとう」
おばけは笑った。誰かがここに住むと知って、喜んでいるようだ。
「ここに引っ越してきたの?」
「うん。初めての一人暮らしなんだ」
すると、おばけは少し寂しそうな表情を見せた。何か理由があるようだ。憲太はその理由が気になった。
「そっか。俺はここに来てずっと一人ぼっちのまま、死んじゃった」
「そうなんだ」
そのおばけは、以前ここに住んでいた人らしい。その男は、東京に来てから、ずっと孤独のままで生涯を終え、おばけになってからでもここにいるという。
「さみしい?」
「さみしいよ。だけど、これから新しい友達を作らないと」
おばけは思っていた。自分のような、孤独な人生を送ってもらいたくないな。広い交友関係を築いて、楽しい日々を送ってほしいな。
「そうなんだ」
「これから頑張っていきたい?」
「もちろんさ」
すると、おばけはますます寂しい表情になった。
「そっか。僕はなかなか新しい生活になじめず、なかなか仕事が板につかずに入退社を繰り返して、そのうちに全く採用されなくなって、飢えで死んじゃったんだ」
そのおばけは生前、様々な会社で入退社を繰り返した。どの会社も板につかず、長続きせずだった。そのうち、どんな会社も採用してもらえず、お金が底をつき、日雇い派遣で何とか頑張っていた。両親のもとに帰ろうとしたが、両親はすでに死んでいて、家は売り払われたという。結局、帰る場所もなくしてしまった。だが、その日雇い派遣もなかなか来なくなり、全く働き手がなくなってしまった。そして、飢えと孤独の中で死んでいったという。
「お父さんとお母さんは?」
「最後に退社した頃にはもう亡くなってた」
両親を失い、すでにどこ親族もいなかったため、彼は無縁仏に葬られたという。あまりにも寂しい最期だった。
「そうなんだ。つらかった?」
「うん。戻れる場所がなくなったから」
帰りたかったのに、死んでしまって、帰る場所をなくしてしまった。どうして自分はこんな道を歩んでしまったんだろう。後悔だらけの人生だった。
「僕の両親はまだ生きてるけど、いつかはいなくなってしまうだろうから、こうなるまでに一人で頑張れるようにならないといけないんだね」
憲太は思った。今は両親は生きている。だけど、両親は自分よりも先に亡くなってしまうだろう。そうなると、自分は自分の力で生きていかなければならない。結婚して、子供を設けなければならない。
「そうだよ。僕みたいになっちゃだめだよ」
「うん」
これからこの先でどんな日々があるかわからない。だけど、交友関係を広く持って、いつの日か結婚して、幸せな日々を送らなければ。
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