悪夢の始まり

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 赤亡の[赤連]加入より2ヶ月後。  赤亡は、最初こそ激痛で悲鳴を上げていたが、少し感覚を掴んだのか、今は少し顔をしかめるだけで済むようになった。 「難しいですね…」 「これ水泳で言ったら、クロールどころかけのびに等しいからね。基本中の基本」 「僕けのび習得するのに2ヶ月かかったんですか…はぁ…」  赤亡はため息を吐く。 「血走、赤亡、痛覚の抑制は進んでいるか」 「あ、団長。今、右手で引き抜いて、左手で体中をブスブス刺すっていうトレーニングをしてます」  字面に問題しか無いような単語を、なんの躊躇いもなく述べる血走。 「マルチタスクにも程があるだろ…で、赤亡は出来ているのか?」 「ええ、まぁ。最初よりは痛まなくなってきましたけど」 「飲み込みが早いんですよ、系糸くん」 「割り切ったんですよ、もう。どうしようもないなら、せめて抵抗しようと」 「心意気は素晴らしいな。ただ、依然として刃術がわからない。どうしたものか」  刃術の説明をする前に、まずは血刃について語らなければならない。  血刃は、赤亡や心做が紋傷から取り出したナイフのことである。持ち主によって性質がが幅広く変わり、種類ではサバイバルナイフ、ダガー、包丁と。かつ切れ味も変わってくるのだが、その中でも最も大きな違いが、先程述べた刃術だ。  刃術は、謂わば異能力であり、人によって種類も違う。  対象物に刺すことで発動する刃術、設置することで発動する刃術、斬りつけることで発動する刃術等、そのバリエーションは多岐に渡る。 「一度投げてみればいいのか?」 「何度も試しましたよ…でも分かんなかったです」 「切られてみたか?」 「めちゃめちゃ切られました。でも体に異常はなく」  血走はジャージの袖を捲り、数多の治っていない傷を見せる。 「私のような刃術でなくてよかったな」 「怖いこと言わないでください」  血走は冷や汗をかいた。  赤亡は心做の刃術をまだ知らないが、恐らく見たことがあるであろう血走が、引き攣った笑みを浮かべながら反応した。 「…実践すれば分かるか?」 「えっ?早くないですか?」 「一応、簡単な物を受注するつもりだ。赤亡?」 「は、はい」 「初任務だ。これを見てくれ」  心做は懐からクシャクシャの紙を取り出し、赤亡に投げ渡した。 「それは成務票(せいむひょう)という」 「えーと…目標(ターゲット):震奮 振(ふるふる しん)、報酬、100000円…十万!?」 「かなり良い報酬だ。だが、前に交戦した震奮はそんなに強くなかった。警戒しなくても何とかなるだろう」 「…?」  赤亡は、心做の事を念には念を入れる性格だと思っていたらしく、疑念を浮かべる。 「一応監督官として、血走を連れて行かせる」 「え、あ、私!?」 「そうだ。赤亡が危機に陥ったと判断した場合、即座に相手の首を切り落とせ」 「は、はい」  焦りつつも了承する血走。 「それと赤亡」 「はい」 「刃血鬼も、治癒力は吸血鬼と同等だ。だが、同族の血刃による攻撃では、治癒が大幅に遅れる。血液は、血刃の生成にも、刃術の発動にも不可欠だ。故に、刃血鬼同士の戦闘では、如何に斬撃を浴びせるかが鍵となる」 「えーと」 「即ち、流血は戦術の瓦解に直結する。逃げても良い、血を流さないようにして戦闘しろ」 「わ、分かりました」 「では、これを赤亡の血刃で切れ。それで受注が完了する」  言われるがままに、赤亡は血刃を成務票に突き立てた。  直後、成務票は血刃もろとも分解され、赤亡の紋傷へと吸い込まれた。 「受注完了だ。目標の場所は取り込まれた成務票が示してくれる」 「…殺さないといけないんですか」  悲しみが込められた声で赤亡が訊く。 「場合によるな」 「まさか、私達が一人も殺してないと思ってたの?刃血鬼なんてやってたら、そんなのいくらでも遭遇する」 「そもそも目標になるのは、何かしらの問題を起こした者ばかりだ。ハンムラビ法典にもあるだろう?目には目を、歯には歯をだ。彼は幾度も殺人を行った」 「……」 「躊躇う必要はない。それが、刃血鬼のルールなのだ、人間とは違う。それが常識なのだから」  心做は、赤亡の固まった心を解そうとしていた。 「…じゃ、行こっか」 「…はい」  血走に連れられ、赤亡は、俯きながら立ち上がった。
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