悪夢の始まり

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「赤亡くん、ちょっと待って」  歩く赤亡を止めようと血走が声を掛ける。 「何です?」 「いや、君の能力がマジでわかんないからさ、心配なんだよ」 「心配するとこ間違ってます。殺してくるような敵を僕がやらないといけないんですか?ここ最近、ずっとあの…アジト?みたいなとこにいたせいで、筋肉が弱ってる気がします」 「ずっと肌を刺してたもんね、筋トレとかそんなになかった」 「それに、人間の時から僕、モヤシもいいとこでしたよ?聴いた話、今から僕がやる人ゴリラみたいな人らしいし」 「まー何とかなるでしょ。団長が言ってるし間違いない」 「そう…なんですかね」  依然として俯いたままの赤亡。 「んー、憂いたって現状は一切変わらないよ。希望があるとすれば、団長の知り合いに刃血鬼研究してる刃血鬼がいたから、その人に何かしてもらうとか…かな」  赤亡の、生気の籠もっていなかった目が、再び光を取り戻した。 「ちょ、そんな目輝かせないでよ。希望だよ?希望」 「1%でもあれば、期待できます」 「妙なとこポジティブだよね…」  呆れたように血走が言う。 「で、どこにいるの?その震奮とかいうやつは」 「うーん、200mくらい先の角を左折して、50mくらい歩けと」 「うんうん。成務票が示す目標の居場所は的確だからね。そういうナビみたいな感じだよ。しっかり取り込んでるね」 「あの紙が体内に入ったというのもあんまり良い気持ちはしませんけどね」  発言はネガティブだが、その視線の先は地面ではなく前だ。幾分か気持ちは晴れたと言えよう。 「それにしても、ここって大通りなのに全然人いませんね」 「今深夜2時くらいだから。酔っぱらいくらいしかいないでしょ」 「ネクタイを頭に巻いて寿司持ってるおっさんなんていませんけど」 「いつの話してるの?ドラえもんくらいでしょ現代でそれやってるの」  会話をしながら歩き続ける二人。  指示通り、200mほど進んだ先に合った角を曲がると、見るからにマフィアのボスのような巨漢が歩いていた。 「うわー、単独で道塞いでるよあいつ。でかすぎでしょ」 「…え?僕今からあれとやり合わないといけないんですか?」 「そだよ。何回も言うけど、当たんなけりゃ大丈夫だから。どうする?私の刃術で吹っ飛ばしてやるけど」 「刃術…?」 「血飛沫の輪(スプラッターリング)」  血走は、その場に人一人通れる位の輪を生成した。 「これくぐると、勢いよく射出されるよ。人間大砲みたいな感じ。マリオギャラクシーのスーパースターリングとでも言えば良いのかな」  血飛沫の輪(スプラッターリング)、血走が使用する刃術。通った物を指定した方向に飛ばすリングを生成する。 「んじゃ、行ってきな」  そう言って、血走は赤亡の背中を蹴り飛ばし、リングに押し込んだ。 「やめ――」  抵抗も虚しく、赤亡は震奮と思われる巨漢の下へ飛ばされた。 「…ええい、ままよ!」  赤亡は腹をくくり、リングによる加速を利用して、巨漢の背中を突き刺した。 「うっ…何だぁ?」  赤亡は刺してから、全力で血走と心做を恨んだ。  高い壁、などというレベルではない。丸腰でスカイツリーを登れと言われたような荒唐無稽、目に見えて不可能。  ネガティブな言葉が更に数を増し、赤亡の頭の中に溢れ出す。 「弱そうなガキだな…オラっ!」  背中に張り付いた赤亡を振り落とし、頭を掴む。 「ぐっ…あぁぁ!」 「生意気だな…この俺、震奮に勝負を挑むなど――」 「…上に注意しなよ…!」 「何?」  促され、震奮は上を向いた。直後、空から血刃が飛んできて、震奮の右目に直撃したのだ。 「ごがぁっ!」  思わず手を放す震奮。 (危なかった…成功してよかったよ。計算通りになった)  掴まれている赤亡は背後で手を組み、血刃を引き抜いて、ほとんど真上の方向に弾き飛ばした。それが落下し、震奮の目を潰したというトリックだ。 「おい聞いてねえぞ…」  目を押さえながら震奮が呟く。 「か、かかってきなよ」  怖気づきながらも挑発する赤亡。 「上等だ…原型も残らないほど、ボコボコに殴り殺してやる」  拳を撃ち込もうとする震奮。  対し赤亡は接近し、己の血刃を震奮の拳に突き刺す。  拳の勢いで血刃は深々と刺さり、一瞬怯む震奮。  急所を刺そうと更に接近する赤亡。 「舐めるな…ガキが!」  赤亡の血刃が胸の皮膚を貫く直前、震奮は右手でその刃を握り、血刃を奪い取った。 「ちょ!?」  更に左手で殴り飛ばし、建物にぶつけた。 「さっきまでの威勢はどこへ行った?よくも俺を挑発しようなどと思ったな」 「…」 「返答する気力すら残っていないか。よかろう、せめて痛みを与えず殺してやる」 「…脳筋かな?判断すりゃよかったのに」 「何だと?」 「僕はまだ負けてない。布石は既に打ってある」  赤亡は不敵な笑みを浮かべた。  片方だけ割れたメガネの裏、赤亡は静かに震奮を窺っていた。
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