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「いいよ俺はそんな難しいことわかんねーから。理屈はどうだっていい。ただ、俺が言いたいのはつまんねーよそんな生き様ってこと」
「わかってもらわなくて結構。本当に浅はか、失望した」
「そうかよ」
「わたしは大きな嘘をついている。いや、正確には画倉井くんが嘘そのものじゃない」
「なぜそう思うの?」
「言葉によって心が形成されるならば、心を持つ者が生物だとしたら、画倉井くんはいったい何者?」
「何者にもなれなかった、普通の男子高校生だよ。だからこうして特別な君の前にいる」
「わたし、画倉井くんの作品、特別だと思ったよ」
「ありがとう、もうあれはなくなっちゃったけどね」
そう、俺が昼休みも美術室で作品を制作している最中、あの作品は消失した。それを習って先日昼休みという時間帯に避難訓練が行われたのだ。
「あの作品には何が込められていたの?」
「色々だよ。一言では言い表せれない。逆に君はあの作品に何を感じた?」
「勇気、かな」
「え? それは意図してなかったな」
「わたしはあれを見て、なんとなく天使が死んでしまった世界観を想像した」
「興味深いな、もっと聞かせて」
「積み重なる羽の下からライトアップされていたでしょ? あれって上から見るとより陰影が強調して見えるの」
「うん、それは意図してそういうふうに設計したからね」
「なんか天使にも影の部分、もしかしたら後ろめたい気持ちを背負って生きているんじゃないかって思ったら勇気をもらってね」
「君みたいに?」
「そういうこと、で、あなたの嘘もそろそろ限界じゃない?」
自分の手を見やればだいぶ透けていた。
「そっか。このへんがしおどきか」
出火もとは俺の作品だった。白熱電球から羽に引火し、気づいたころには美術室から脱出できないくらいに火の手は上がり、俺は一酸化炭素中毒で意識を失い息を引き取った。しかしなぜだか俺は現世に留まっていて、見える人には見える存在らしかった。
今の今まで、自分が幽霊であるということを認識しながらも、どうやら俺の嘘もここまでかと悟った。
「ありがとう画倉井くん、話せて楽しかった」
「最後俺の作品を特別だって認めてくれて嬉しかった。じゃあさようなら」
全ては言葉で形成されていて、嘘も、本物も。その光も、陰影も。言葉によって成立しているのだとしても、俺にとってはそんなことどうでもいいことかもしれない。
俺は光、あるいは影に同化した。
(おわり)
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