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「建前、お世辞、冗談、社交辞令。これって全部嘘じゃん。世の中嘘まみれ。つまり嘘は正義。真実は悪」
「物は言いようだな。俺はそう思わないけど」
彼女は普通であるための極意を俺に教えてほしいと問うたが、そんなことは知らないと一蹴し、反対に嘘でいるための秘訣を彼女に訊いた。
「嘘は言葉からできてるの」
嘘は方便なんて言うくらいだからそうなんだろう。しかし、容姿についてはどう説明するのか。
「いつも伊達眼鏡で目立たないようにしているのは嘘の姿じゃないの? これって言葉じゃない。容姿だよね」
「それも言葉からできてる」
「は? どういうこと?」
容姿を偽るためのアイテムすら物体ではなく言葉だと言い張る彼女の目は、光をもって嘘の答弁がないことを証明している。
「画倉井くんは今のわたしを見て可愛いって思った?」
「あ、ああ」
「可愛いって言葉だよね」
「そうだけど」
「そういうこと」
「いやどういうこと?」考えるけど、マジでわからん。
物体はおろか、概念のような心で感じるものですら言葉だという独自の解釈。
彼女はつまり、言葉で自分を洗脳すれば、偽物のできあがり。簡単。おかげでわたしは高校生活を上手くやれているのだと説いた。
加えて、「言葉は嘘ではない。言葉っていうのはいつも真実」とも。
「言葉そのものはたしかに真実。偽りようがない実体だ」
「画倉井くん案外賢いのね」
「いやそんなことはない。ほとんど意味を理解してないからな」
「言葉は心。心は言葉」
さきほどから彼女の言っている“言葉”の意味が、俺の知能指数では理解できないでいる。
「もっと簡単に言ってくれよ」
「画倉井くんって誰か好きなひといる?」
「まあ、一応」
「その『好き』って言葉でしょ?」
「言葉だけど感情だ」
「その『感情』も言葉でしょ?」
「つまり?」
「『好き』も『感情』も心で自然に湧き上がるものと考えているのが間違い。それこそが嘘。すべては言葉から形成される。つまり『言葉を制するものは嘘を制するのだ』。byイチノノーカ」
顔のパーツをすべてドヤ属性に変換したその面持ちはどこかピカソが描いた顔面みたく、そしてピカソの如く世に15万点の作品を残すほどの名言を量産するイチノノーカ。
「……フェルメールなんて現存する作品35作しかないのに」
「え? 今なんて?」
「いやなんでもない。で、つまりは俺の『好き』という感情は単なる言葉でしかない。と、そういうこと?」
「あってる」
「そんなわけがない。俺の胸の内から熱く込み上げる『好き』というものは心の動きそのものだ」
「それ全部言葉で説明しちゃってるじゃん」
「戯言だよそんなの」
「違うよ。仮に『好き』って言葉がこの世界になかったとして、画倉井くんはその感情をどう表現するの? どう心に認識させてあげれる? 心が先だ。そう勘違いしている。いつも心は置き去りで言葉が先導して心を形成しているの」
彼女は確信ある堂々とした表情、口調でさらに続ける。
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