5 The Organized Crime 1

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5 The Organized Crime 1

「とにかく、バナナの皮が事件現場の屋上に落ちていた。ただ、屋上に被害者が事件当日に上がったという記録がない。なのに10008(ヨロズヤ)は屋上にバナナの皮を残しているってのが引っかかるんだよね。そうだろ? アイ」  (カズ)()が市松人形に話しかける。 『事件当日、屋上で人間の出入りは感知されていない』  アイが答える。 「感知って、防犯カメラに人影が映っていないってことか? しかし、警察でもないのに、そんなことがわかるのか?」  (ミツル)の疑問に一哉はさらりと答える。 「アイの情報収集能力は日本国内では三本の指に入るはずだよ」 「まさか、クラッキング……」 「えっと、クラッキングとかハッキングとかそういう難しいことは僕はよくわかんないけど、とにかくアイはすごいんだよ!」  あははっ、と威勢の良い笑い声を一哉は上げた。わからない、ですべてを誤魔化したのだ。 「どういう仕組みかは、私もアイのプログラマーではないのでわからないのですが、一哉の言うとおり、アイはあらゆる情報に精通しています」  (エイ)()もにこやかに答えるが、眼鏡の奥の瞳が「これ以上追及するな」と告げている。  ひとまず満は細かいことは聞かないことにした。そうでなければ、アイ探偵事務所から問答無用で追い出されそうな気がしたのだ。 「事件現場の高層マンションは、屋上が公園として整備されています。利用できるのはマンションの住人だけですが、もちろんマンションの住人と一緒に外部の人間が屋上の公園に出入りすることは可能です」  英知は事件について詳しく記憶しているのか、タブレットなどは一切見ずにすらすらと説明する。 「屋上から転落することがないように、周囲には二メートルの高さの強化ガラスの塀が張り巡らされています。もちろんよじ登ることは不可能ではない高さですが、強い力を感知すると管理人室に連絡が入るそうです。主に、ガラス塀が壊れた場合にすぐ対処するための処置だそうですが、誰かが塀によじ登ろうとした場合も想定されています。ただ、事件当日は小雨が降っており、朝早かったこともあり屋上に入った人がいないことは防犯カメラの映像と扉の開閉記録から確認できています」  どうやってアイが四ツ坂マンションの防犯カメラの映像と屋上の扉の開閉記録の情報を入手したかについては、満は聞かないことにした。それが合法にせよ違法にせよ、英知の話の腰を折る方が相手の心証が悪くなるような気がしたのだ。 「で結局、アイは四ツ坂マンションの事件は10008が絡んでいるって言ってるけど、それは現場のマンションの屋上にいつものバナナの皮があったからなんだよね? 英知さん」  英知と向き合って座るためか、一哉はソファの満の隣に座った。  自分は来客用の席ではなく一哉の定位置に座ってしまったのだろうか、と満は落ち着かない気分になった。  普通は依頼人の隣にスタッフが座るべきではないと思うし、英知の隣やアイと真正面の席も空いているのだからそちらに座ってはどうかと内心考えたが、満の胸中は一哉には伝わらなかったらしい。  英知は軽く眉をひそめたが、一哉に注意することはしなかった。 「そうです。被害者は転落死。これは10008が殺害の際に一番よく使う手口です。そして、現場に落ちていたバナナの皮。この二つの共通点から、アイは10008が関係している事件と推察しています」 「転落死?」  満は麦茶を一気に飲み干してから聞き返した。  空になったグラスには、一哉がすぐさま追加で麦茶を注いでくれた。よく気がつく性格らしいが、ソファから立ち上がって冷蔵庫から麦茶のボトルを持って戻ってきて座り直したときには、さきほどより満との距離が縮まっていた。どうやら一哉はパーソナルスペースが狭いらしい。 「10008は転落死を装って標的を殺すことが多いとアイは推測しています。転落死は事故、自死が装えることと、凶器を必要としません。凶器を使うと下手をすれば犯行現場に残してしまう恐れがありますが、転落死であればナイフなどの凶器を必要としません」  淡々と英知は怖ろしいことを言ってのけた。  つまり、警察が転落事故として処理した転落死のうちの一部は10008による事件である可能性があるということに、満は気づいた。 「そのため、10008は()()の怨霊だのあやかしだのいう噂もあります。10008は存在そのものが都市伝説扱いで、被害者を突き落とす両手だけが壁から生えてきただの、透明人間のように壁をすり抜けていっただのと、眉唾物の証言はごまんとありますが、とにかくその姿を見たと言う人はいません。警察が10008のメンバーを一人でも逮捕したことはないどころか、尻尾を掴んだこともありません」  英知の説明に、満の表情は険しくなった。
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