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出題
前述したとおり、彼女たちは教師連中から素行の悪さを、多少見逃されていました。その多少が、わたくしにはどうしても受け入れ難く、許し難かったのです。
わたくしが知っている限りでも、飲酒や喫煙、教師との淫行がございました。
もし、わたくしが彼女たちと同じことをすれば、当然のごとく制裁が下されるのに、彼女たちは彼女たちのキャラクターによって周囲に守られ青春を謳歌しているのです。
そんな理不尽を解消できるチャンスが、目の前に転がってきたのですから、内心で舞い上がっておりました。
どうせ、今日はエイプリルフールなのです。
ウソをついても、ウソがばれても、イベントの一部として昇華される。
そんな楽観的な思考も働いて、わたくしの中にある罪悪感は限りなくゼロになりました。
とはいえ、わたくしは自分の頭の悪さを知っています。
ミステリーの小説の犯人のような、巧妙なトリックを思いつくことも実行力もないのです。無理をして計画が破綻するのならば、運に任せた単純なウソをつくしかない。と、六時限目で結論を出しました。
放課後のチャイムが鳴った直後です。
わたくしは演技ですが、血相を変えてAに話しかけました。
「あなたのお母さんがケガをした」と。
話を信じたAは顔を真っ青にして、すぐに帰り支度をします。残る四人は不服そうでしたが、突然の友人の不幸を前に、自分たちの我を通すほど面の皮が厚くありません。
Aは自分の誕生日に母親がケガをしたという、悪質なウソを信じて帰宅し。
かたや友達を喜ばせようと、サプライズバースデーを企画した四人は、当初の予定通り、いつものカラオケ店に行き――喫煙を店側から通報されて停学処分になりました。
せっかく企画したサプライズが潰されたのです。彼女たちは面白くなかったのでしょう。憂さを晴らそうといつもよりハメを外し、長居をしたことが店員の目に留まったのです。
学生の喫煙を見つけてしまった以上、店側も無視するわけにはいきません。
学校で守られていた彼女たちは外の世界の介入により、今まで見逃されていた多少が問題視されて停学から退学へ。カラオケに行かなかったAは、停学の期間が延びてしまいました。
そこから先は、風の噂で聞いた話ですのでご了承くださいませ。
発覚から沙汰が下り、わたくしの学校生活は一変しました。
仲良し五人組の友情があっさりと瓦解したこと、学校側と保護者たちの責任の押し付け合いと、淫行関係のあった教師たちとのハメ撮り動画の流出。スリリングで見当違いな憶測と噂。
例えば、わたくしのウソが曲解されてAが四人をハメたことになり。
例えば、彼女たちは危険なクスリをやっていたと、噂に尾鰭が付き。
例えば、そのカラオケ店には、淫行関係のあった教師もいたと脚色され。
例えば、逆恨みと疑心暗鬼で、五人の間で陰湿な報復合戦が起き、ケガ人が出た……等々、ホラーとミステリーとサスペンスのフルコース。
当事者たちにとっては、たまったものではございません。
まさか、わたくしがついたウソが波紋を広げて、彼女たちがここまで追い込まれているなんて思いませんでした。
ですが、後悔なんてしていません。
わたくしは、傲慢にキラキラと輝いていた五人の少女の人生を、みごとに台無しにできたのです。
自分たちにとって取るに足らない、空気のような存在として扱ってきた人間が、まさかここまで自分たちの人生を狂わせたとは、だれも気付くことはありませんし、気づこうともしないでしょう。
彼女たちは、どう足掻いても、人並の幸福が訪れることはありません。
なぜなら、日常や勉強は努力すれば取り返しが利きますが、ハメ撮り動画は一生ついてまわるのですから。
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