八、午後のお茶会

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「白雪の言葉は、不思議だ。まるで俺にも心があるように感じられる。そして、その心を操られているようにさえ」 「もとから、言葉には力があるのです。良いようにも悪いようにも、心を操る力が。だからこそ、大切に扱わねばならないのだと」 「そうか、言葉に力があるのか……」 「刃物のように傷つける言葉も、薬のように傷に効く言葉もございます。言葉を知らねば間違った使い方をしてしまいます。だからわたしは、書物をいくらでも読みたいと思うのかもしれません」  白雪は熱心に薫の瞳を見つめた。 「旦那様の飾らないお言葉が、わたしに気づかせてくださいました。わたしは、わたしの人生を諦める必要はないのだと」 「白雪……」  すると、薫は白雪を抱き寄せた。 「旦那様……?」 「俺は、お前に幸福を与えてやれているか?」  いつになく、どこか頼りない声で囁かれる。 「ええ、もちろんでございます。とても……とても幸せです……」  それは白雪の本心だった。  居場所があり、役割があり、自分の思いを受け取ってくれる人がいる。 「これ以上の幸せはないくらいに、幸せです」  言葉は時にもどかしくもある。  言葉では伝えきれない思いを示すかのように、白雪は薫の背中へそっと腕を回すのだ。  大事な相手にこれほど大切にされて、幸せ以外の何だというのだろう。  この気持ちにふさわしい言葉があるとしたら、それは―― 「白雪、これからは俺の部屋に自由に立ち入ることを許そう。この部屋にある書物も、好きなだけ読むといい」 「ほ、本当ですか?」 「ああ。本当だ」 「ありがとうございます。わたし、嬉しくて、嬉しくて」 「お、おい」  白雪は無邪気な子供のように、ぎゅうっと薫にしがみついた。
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