序、冥婚の儀

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序、冥婚の儀

 雪洞(ぼんぼり)の柔らかな炎が、薄明かりの夜を照らしていた。  金屏風の前には、黒紋付の美貌の男と、黒引き振袖の若い花嫁。  黒塗りの酒器がきらりと光る。花嫁は盃を渡され、手に取った。  御神酒が注がれた盃に広がる、美しい波紋。  ……どくり、花嫁の胸が強く脈を打つ。  怖くないと言ったら嘘になる。  花嫁の盃を持つ指先は凍えるように冷たく、唇はわずかに震えている。  瞳は潤み、心は揺れ動いていた。  この婚姻は、死を意味する。    ああ、だとしても。  奪われるばかりで、最初から自由などなかったわたしには――  白い頬を涙の雫が滑っていく。  諦めなのか決意なのか分からぬ表情で、花嫁は、そっと盃に口を付けるのだった。
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