一、甘い毒

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 外は静まり、空には星が瞬いている。 「白雪様、奥様がお呼びでございます」  納戸の外から女中が言った。 「は、はい」  こんな夜更けにどうしたのだろう。  不審に思う白雪だが、慌てて身なりを整えて、夜子の部屋へと向かうのだった。 「白雪、中に入ってそこに座りなさい」  寝巻き姿の夜子は、座布団を差し出す。珍しく丁寧に扱われ、白雪は戸惑った。  ちゃぶ台の上のグラス。封緘が破られた酒瓶。寝酒でほろ酔いといったところだろうか。 「お義母様、何でございましょうか」  白雪は控えめな声で訊ねた。 「白雪に縁談話があるんだよ。お相手は実業家の不動薫(ふどうかおる)さん。いくつも事業を手掛けていらして、土地やビルディングもたくさんお持ちだとか。私はお受けすべきだと思っているんだけどね。どうだい?」  上機嫌で夜子は言う。しかし、白雪は困惑するばかりだ。 「驚くのも仕方ないね。私だって最初は、明蝶家の娘を成金に嫁がせるなんて、考えもしなかったんだから。だがね、蛍川様から言われたんだよ。お金の話は、今回を最後にしてくれってね。私の実家も細ってしまって当てにできない。他に頼るところもない。困ったもんだ」 「そうでしたか……」 「旦那様の病院代だって馬鹿にならないし、屋敷を維持するのにもお金がかかるだろう? 最近の女中は、給金が安いとさっさと辞めてしまうからね。女工のほうがずっとお金になるそうだよ。金金って、情も何もあったもんじゃない」  使用人たちがやめていくのは、夜子が彼女たちを蔑ろにするせいだ。  そもそも、贅沢三昧をして、財産を食いつぶしているのも夜子である。 「不動さんは、そんなうちの事情も知っておいでで、支援をしてくださるって仰ってるんだよ」 「しかし、お義母様……」 「明日、呉服屋さんが来るからね。新しい振り袖を誂えてもらいなさい」  夜子は、意見しようとする白雪の言葉を遮った。 「お義母様……!」 「不動さんは、とても気前の良い方でね。さっそく支度金を準備してくださったんだよ。足りなかったらいくらでも催促してかまわないってさ」  聞く耳持たずの夜子に、白雪はため息をつく。  どうせ、結婚は、白雪が決められることではない。 「不動様は、どんなお方なのでしょうか?」 「さあ? 秘書の藤さんという方にしか、まだお会いしたことがないからねえ。そのうち見合い写真や身上書も届くでしょうよ」 「どんな方かも分からずに、お受けしたのですか?」 「あらあら、文句があるようだね」  夜子がじろりと白雪を睨む。
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