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「あれだけの財を築いていらっしゃるのだから、立派な方に違いないじゃないか。まあ、悪い噂がまったくないわけじゃないけど、そこは目を瞑るしかない。それともまさか、相手の年や見てくれまで気にしているのかい?」
「そ、そういうわけでは……」
「贅沢な娘だねえ。私は明蝶家に嫁ぐ時、文句のひとつも言わせてもらえなかった。後妻だとしても、前妻の子供の世話までしなくちゃならなかったとしてもね。私みたいな庶民が、華族様の妻になるなんて、それはそれはたいへんなことだったんだよ。だいたい、黙って従うのが親孝行ってもんじゃないのかい? それとも、私の言っていることが、間違っているって?」
「いいえ……」
商家の娘だった夜子にも、これまでに様々な苦しみがあったのかもしれない。そう思うと、強くは言い返せない白雪だった。
「だったら、話を進めるよ」
「ですが、不動様は、本当にわたしなどで良いのでしょうか?」
それほどの資産家であれば、もっと良い縁談はあるかもしれない。こんな、落ちぶれた華族の娘でなくてもいいはずだ。
白雪は、体も弱くみすぼらしい今の自分を、相手に気に入ってもらえるとは到底思えなかった。
「馬鹿だねえ。不動さんは、明蝶家という箔を付けたいだけだよ。お前が良くて、結婚を申し込んだとでも思ったのかい? お前はただのお飾りなんだ。それだけは肝に銘じておくんだね」
「そ、そんな……」
夜子の言い草に、白雪は絶句する。
「運良く可愛がってもらえれば、子供だってできるかもしれない。男が産まれれば、明蝶家の養子にすればいいじゃないか。断絶も覚悟なさっていた旦那様はお喜びだろうよ」
家を存続させるための道具のように言われ、白雪は深い悲しみに襲われる。
さらに夜子は――
「まあ、体の弱いお前には、難しいかもしれないがね。本当に役立たずの娘だよ」
白雪を罵り、せせら笑った。
あまりにもひどい――白雪は、悔しさに震える。
しかし、涙は見せなかった。
『人前で泣いてはなりません』
思い浮かべるのは、実母の言葉。
武家に生まれた実母は、優しさの中にも強さを秘めた人だった。
周囲の者を惑わさぬよう、感情を押し殺すのは礼儀で配慮だと教わっていた。
だから白雪は、唇を噛みしめ耐え抜くのだった。
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