VIII

1/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

VIII

 日高さんの行き先にもしかしたらという心当たりがある。  “赤いはしに行けば良いじゃないか”  日高さんがいつもデスクトップの背景にしているのは有名な橋だった。調べると自殺の名所でもあるらしい。飲みに行った日の一言。あの時のは、箸じゃなくて橋だったのではないか? (いや、でももう何日も経ってるし流石に都合よく居たりしないよな)  勢いでここまで来てしまったけれど、ここには座り込んでパソコンをカタカタしている人しか居ない。しかもその人は僕が探しているその人にそっくりでーー 「い、居たー!」 * 「死のうと思って来たけど、執筆が楽しくてね」  日高さんはノートパソコンを閉じた。  あれから何度も此処に来ていたらしい。 「昔から小説家になるのが夢だったんだ」 「初めて聞きました」  言ってないからね、と力なく日高さんは笑った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!