VIII

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「やれることとやりたいことの話をしたね。ずっと、私にとってやりたいことは小説を書くことだった。でも、やれないままこの歳になった。叶わないからずっと横で人が夢を叶えるのを見ていた」  話によると、日高さんは、読み専と呼ばれる小説を読む側の人だったらしい。”すたぶりえ”の常連である。やがて日高さんは面白い小説にコメントしたり、星を送ることで作者を応援するようになったという。  そんな彼が小説投稿サイトの企画でバズってしまった。読み専だった彼には埋もれた珠玉の作品を見つけるのは容易かったという。中には彼の企画で勢いを付けてデビューまでした人も居た程だ。  “自分の目に狂いはない”。 「私は思ったんだ。私も書けるのではないか、と。夢を諦められないと密かに書き始めた」  けれど、現実はそう甘くはなかった。  日高さんの小説は誰にも読まれなかった。やりたいことに対する適性の無さ。失意の中で他人を応援することに複雑な気持ちになったのだという。 (そうか。僕の悩みともリンクしてたんだ)  モノづくりがしたいのにモノづくりへの適性がない僕、小説が書きたいのに小説が書けない日高さん。
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