新たな門出には、最高の笑顔で

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 そうして、私は引越しをする。亮のもとへ。もうどうしようもなく好きになってしまったから。和哉のことは忘れなくてもいいと言ってくれたから。私たちは一緒に居ることを選んだのだ。自分たちで、ちゃんと考えて。 「詰め忘れた物はない?」  引越しの当日。業者に頼んで荷物の搬出をしてもらっていたときに亮にそう聞かれた。約十五年を私はここで過ごした。男遊びは二十代の後半までで終わらせていた。いろんな思い出が詰まったこの部屋と、ついにお別れなのだ。妙に感慨深いものがあるなと思った。 「うん、大丈夫。残った物ももう全部キャリーケースに詰めたし、忘れ物はないよ」  隣の県に住む亮が、この日のために休みを取って車でこちらに来てくれていたのだ。業者が出て行ったら、綺麗に掃除をして、退去の立ち合いが午後に控えている。もう本当に、この部屋を出るのだ。 「後悔、してない?」  不意に亮がそう尋ねてきた。後悔など考えたこともなかった。こんなにベストな相手にはもう一生巡り逢えないという確信があったのだから。 「するわけないじゃん。亮といる人生を、私は選びたいよ」  私は真っ直ぐ彼を見てそう返した。後悔なんかしない。そんな簡単に諦められるのなら、従兄弟なんて面倒な関係にここまで踏み込んだりはしていない。ちゃんと乗り越えて、私たちはここまで来たのだ。 「ありがとう」  亮は照れくさそうに笑った。それを見て、私は心から幸福な笑みがこぼれた。願わくは、この先一生、彼と添い遂げられる人生を。亮と築いていく未来に、私は少しも不安などなかった。だって、亮という人だから。理由はそれだけで充分だった。
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