新たな門出には、最高の笑顔で

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  引越しをする。従兄弟のもとへ。もうずっと私は和哉に恋をしてきたけれど、十年以上も恋をしてきたけれど。それをすべて受け入れてくれるという従兄弟の亮のもとへ。 「実はずっとタイプだったんだよね、子供の頃からずっと」  そう言った亮のことを、私はほう、と思って見ていた。前日に私たちは飲んだ勢いでキスをした。親戚が集まる日で、私たちは一番遅くまで飲んでいた。お酒に夜更けに、ちょっといい雰囲気の男女がいたらそれはもう必然的なものだと思うのだけれど、私たちは従兄弟だった。けれど、不思議なほどに私には罪悪感も嫌悪感もなに一つ湧いてはこなかったのだった。  男遊びは散々してきた。遊んでいるという自覚があった頃もなかった頃も、とにかく男に困る人生を送ってはこなかった。それは社会人になってからのことだけれど。  子供の頃は、とにかく自分に自信のない人生だった。太っていたし、毛深いのもトラウマだったし、お洒落にはまるで自信がなかった。そんな幼少期を終えて社会人になり、私は大学デビューならぬ社会人デビューを果たした。 「だから、あの時はとにかく、いいの?って思ってしてた」  亮はそんな風に話していた。あ、そうなんだ、というくらいの思いだった。  私にもドストライクの外見とやさしさの塊という要素を持ち合わせた友人ががいるので、そんな人と良い感じになったら止まるという選択肢なんてないよな、と納得している自分がいた。 「声も顔も、雰囲気も。全部好きなんだよね」  ――好き。そこで初めて、あ、これは告白だったのだ、と気が付いた。鈍感にもほどがあるというものだが、そのときの私はまさか従兄弟が私を好きだと思っているなどということは微塵も予想していなかったのだ。  それに私はそんなことよりも”共感できる”と思ってしまったのだった。私がずっと想ってきた和哉のこと。恋は愛へと変わり、いつしかとにかく彼が幸せに過ごしてくれていればと願うようになった。それでも会うことがあれば、私たちはやることはやっていた。そんな想いを、きっと亮はしているんだと思ったから。亮は優しい人だったから。  私たちは昔から同い年ということでとても仲が良かったのだという。周りの大人たちがそう言っていたのを聞いて、そうだったのか、と思うほどに私は覚えてなどいなかったのだけれど。ただ、やはり同い年というだけで、ほかの従兄弟とはどこか違う親近感みたいなものはずっと持っていた。 「あ、え、好きだったんだ」  私から出たのはそんな間抜けな言葉だった。
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