新たな門出には、最高の笑顔で

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 ただ、その想いに溺れたのだと思う。私はひたすらに溺れていたかった。こんなに愛される幸せに、こんなにも大切にしてくれるこの人の想いに。  そうしてどれほどの年月が流れたことか。私たちの関係をついにお互いの両親に話すべきときがきたような気がしていた。やはり反対されるだろうことは予想できていた。 「絶対反対されるよね」  そういった私に亮は、 「そんなの言われても、僕たちがこうしたいからこうします、って言っちゃうけどね。あなたたちに迷惑は掛けませんって」  ときっぱりと言ったのだった。なんと心強い言葉だっただろう。私はこの時の言葉を何度も反芻することになる。この人は普段は優しいけれど、ここぞというときにはこうして私を包んでくれるのだ、と思わせてくれたのだから。  三十年。それは途方もない期間だ。その途方もない期間を、ただひたすらに好きでいてくれたことに、もうそれ以上の信頼などないだろう。どんな私も出せる、私たちの関係は本当に理想だった。見せられない姿などお互いになくて、付き合ってみたら言えなくなることも出るかと思ったのに、見事にそんなこともなかったのだ。  もう、一緒に住もうと話した段階で、それならついに両親への挨拶だとなったのだった。  幸い、亮の印象自体はうちの両親にはかなり良いし、私も亮の両親に良い印象であることは分かっていた。ただ、従兄弟という関係にあるだけ。けれど、日本では三親等までしか結婚を制限されていない。つまり、四親等にあたる従兄弟同士は結婚が法的に許されているのだ。今でこそ不自然な扱いになっているものの、昔でいえばお見合いで従兄弟同士を選ぶことも普通だったのだ。いつからこんな世の中になってしまったのだろう。 「そうだよね、何も悪いことしてないのにね」 「そう、悪いことしてないし、迷惑だって掛けるわけじゃないし」 「別れたらまぁそれはもうかなり気を遣わせることになるけどね」 「別れないでしょ」  やはり亮はきっぱり言った。まぁたしかに、大抵のことをお互い許容できる性格な上に、価値観まで合うのだ。別れる理由が浮かばなかった。私たちは恋人のようになってからはまだ浅くとも、それ以上に昔からずっと知っているのだ。お互い、恋人との同棲というのも経験しているので、ある程度理想がそのまま現実にやってくるなどとは言えないことももう分っていた。それだけ、現実を見る年齢にもなっていた。
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