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ガチャリ、と隣の部屋の玄関ドアが開いた音が聞こえた。
六畳一間のボロアパート、家賃2万円。
僕が住んでいるアパートは、築ン十年の歴史ものだ。
隣の部屋の噂をかぎつけ、また誰かが引っ越してきたのだろう。
それもそうだ、あの部屋は曰くつき。
住んだら何日か後に死んでしまう、そんな噂が絶えないのだ。
これまではやれユーチューバーだの、ミステリーマニアだの、幽霊がいないことを証明するという自称科学家のおっさんまで、老若男女問わず引っ越してきた。
今回は、誰が引っ越してきたんだろう、そんなことを僕が考えているとピンポンが鳴った。
ガチャリと扉を開いて、僕は隣の引っ越し主を出迎えた。
20代の若い女性だ、なんてもったいない。
「引っ越し蕎麦です」
気を使わなくていいです、いらないですよ、なんてやんわりと断るが、相手もどうぞと引かない。
ーー僕はため息をついて、やむを得ず引っ越し蕎麦受け取った。
「ほんと、気を使ってくれなくてもいいのに……」
ひとりごとを思わずつぶやく。
最近は噂が噂を呼び、ひっきりなしに引っ越してくる自殺願望者たちからの引っ越し蕎麦が多い。
食費は浮くが、やたらと同じものは勘弁してほしい。
玄関扉を閉め、僕は六畳一間いっぱいに積み上げられた蕎麦を眺めた。
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