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「エイプリルフールか……」
カレンダーを眺めて牧原祐樹は呟く。
これから友人の大塚勝と花見に行く予定なのだが、せっかくなら何か仕掛けたいところだ。
「そうだ!」
祐樹は隣の姉・春花の部屋へとノックもせずに入る。
春花は朝早くから推しキャラのオンリーイベントに出かけていた。
それをいい事にタンスを開けて服を物色、コスプレ用のウィッグを選んで身に着けた。
そしてコスメも借りて化粧をすれば、美少女の出来上がりだ。
実は姉のコスプレ趣味に付き合わされ、イベントで何度か女装したことがある。
待ち合わせの駅前へ着けば、頭一つ飛び出た大きな背中を見つけた。
「大塚さんですね?」
「はい? え? どちら様で?」
振り向いた勝は女の子にいきなり声をかけられ驚いていた。
「私、牧原の姉・春花と言います。弟が腹痛で来られなくなったのでそれを伝えに」
「そ、そうですか。わざわざすみません。そのくらいならスマホで連絡すればいいのに」
「それがスマホをトイレに落としてしまって、連絡先が分からなかったんですよ」
「なるほど」
「大塚さん、せっかくなので私がお花見にお付き合いしましょうか?」
「え!? あ、はい! 自分で良ければ!」
桜が満開の公園は大勢の花見客で賑わっており、屋台も出ていてお祭りのようだ。
「そろそろお昼ですし、お腹がすきましたね」
「自分がオゴります!」
祐樹は遠慮なく屋台の料理を食べまくった。桜も綺麗でお腹も満腹。十分堪能したことだし、そろそろネタばらしを……。
「その……春花さん」
「はい?」
「連絡先を交換させて頂けないでしょうか?」
「――くっ」
勝の騙されっぷりに思わず吹き出しそうになるのを堪え、祐樹は人気のないトイレの裏へと勝を誘った。
「春花さん、こんな所でなにを?」
「ぷっ、くっ、あはははは!」
「は、春花さん?」
「バーカ。俺だよ、祐樹だよ」
そう言って祐樹はウィッグを外し、見せつけるように勝に顔を近づけた。
勝はプルプルと身体を震わせ始める。
「お、怒るなよ……今日はエイプリルフールだぞ……」
ドン!
勝の太い両腕が祐樹の背後、トイレの壁に叩きつけられた。
「それでもこの気持ちは変わらん。牧原、俺の彼女になってくれ」
「お、おい、冗談だろ? ああ! エイプリルフールだしな!」
「俺は本気だ」
勝の両腕に挟まれ、逃げ場がないところにその顔が近づいてくる。
「おい、バカ、やめ――」
ブチュウゥウウウ!
唇を塞がれた祐樹は、声にならない悲鳴を上げるのだった。
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