プロローグ

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プロローグ

 しんと静まり返ったホール内に支部大会に進む代表校を発表するアナウンスが聞こえた。  目を閉じると入部を決めた一年生のあの時のことが次々と思い浮かんでくる。 部活動紹介で見た吹奏楽部の演奏が忘れられなかった。  指揮者を真剣に見ている演奏者、すうっと息を吸う音が微かに聞こえ音の洪水が襲ってきた。あの時の衝撃が忘れられず、彼らの演奏に魅了され吹奏楽部に入部した。  今日の演奏は全力を出し切れた、今までの中で一番の演奏だった。 金賞を取れるのは当たり前だと思っていた。だから支部大会にも行けるだろう。そう信じていた。 しかし、選ばれることはなかった。  代表校が発表された瞬間、結果発表のときから隣で縋りつくように強く握られていた手は離された。こうしてコンクールはあっけなく終わってしまった。 選ばれたのはちょうど前の席に座る中学生の集団のようで、そこからはほぼ悲鳴といっていいほどの歓声が上がっていた。目の前の生徒たちは喜び抱き合っていたり、嬉しさのあまり泣いていたりしていた。  これで引退であるという現実を受け入れられずにただ目の前の選ばれた学生たちを眺めていることしかできなかった。  いつの間にか授賞式も終わり、生徒たちが移動を始めた。僕はというとほんの二時間ほど前まで立っていたステージをいまだに眺め続けていた。  隣からすすり泣く声が聞こえ現実に引き戻された。右側を見ると僕の隣に座っている後輩が僕の手をまた握り直して泣いていた。 「先輩、終わってしまいました。あれだけ先輩もみんなも必死でやってきたのに! どうしてっ……」 「終わってしまったね。思えばあっという間だったよ」  彼にはまだ来年があるというのに部員の誰よりも悲しんでいるようで僕は不思議だった。 「僕たち三年生はこれでおしまいだけど、来年頑張ってね」 「……悠真先輩」  グスッと鼻をすする音がして彼が本当に悔しがっていることがよくわかった。  僕はこの時どんな顔をしていただろうか。確かこの後、後輩はこう言っていたはずだった。 「先輩は演奏していて楽しかったですか?」  僕を見る彼は親とはぐれた子供のように不安そうな顔をしている。僕はどう答えたっけ? そう考えているうちに視界はぼやけ後輩の顔も見えなくなってきた。
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