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 チヨの電話に恋人のケイからメッセージが入ったのは、窓の外の桜が咲いた日の早朝だった。 「別れよう」  要約すればその一言に尽きるのだが、言葉としては辛辣(しんらつ)だ。 「おれは、おまえのことが嫌いだった。臭いし、ブスだし、性格悪いし。おまけにしつこいしメンヘラっぽいし」  そんな長文の悪口がオブラートに包む気もなく書き連ねられている。 「なによ、これ……」  寝起きでそのメッセージを見たチヨは胸がずきんと痛んだ。  たしかに、チヨは自分の容姿に自信がない。おまけに風呂にも三日に一度しか入っていないので客観的にも清潔とは言いがたい。性格の部分は、言わずもがなだ。自分の感情の起伏で恋人のケイにあたり散らすことも少なくない。 「私はケイくんみたいに好き勝手なことしてない! いつも我慢してるんだよ!」  そう言って叩くこともあった。ものを投げつけることもあった。 「だけど……」  チヨにはわからないことがあった。ついこのあいだまでそんなチヨのことを「好きだ」「愛してる」と言っていたケイが、突然こんなことを言うなんて信じられない。たしかに、ケイが彼女を抱いたのはもう半年以上まえのことだ。身体の相性がよかったのか悪かったのかさえ、もう思い出せない。  だが、それがどうした。ケイは超がつくほど優しくて、超がつくほど、お人よしなのだ。まえにケイは嬉しそうにチヨにドナーカードを見せたことがある。 「ほら、見て! おれ、全部登録した」 『すべての臓器を提供する』の欄にチェックがついていた。 「なんでそんなのもらってきたのよー」  笑ってつっこみを入れるチヨを見てケイは頭をかいた。 「だって、死んじゃったら必要ないじゃん。それなら、必要な人の役に立てた方が嬉しいだろ」  そう言って曇りない笑顔を見せてくれるほど他人思いなのだ。そんなケイが、人を傷つけるような言葉を吐くなんてチヨには信じられなかった。  こんなの、嘘。  そう思ったチヨはメッセージに返信をしようとする。そこで彼女の目に、あるものが飛びこんできた。  送信日時。  メッセージの送信日は四月一日となっていた。
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