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28話 透真side(7) 幸せにしたい
他の誰でもない俺が、律さんを幸せにしたい。そこで……もしかして、手紙読んでないのかと思って思い切って聞いてみることにした。
「もしかしてですが……プレゼント、開けてないですか」
「あっ……」
「はあ……そういうことか」
開けてないって、何も言わないわけだ……とにかく、今は俺の気持ちを知ってもらうしかない。
律さんが家まで招いてくれて、そこで恥ずかしかったが自分の素直な気持ちを伝えた。
少し締まらなかったが、それでも律さんは真っ直ぐに俺の気持ちを聞いてくれた。
「俺と結婚を前提に、お付き合いして下さい」
「……仕方ないから、付き合う」
それから俺が少し先走りすぎて、律さんを怖がらせてしまった。マズい……初めてなの、丸わかりじゃん。
もう少しちゃんと、考えて行動しないと……それに何も、準備も下調べもしていない。
こんな状態でことに及んでしまうと、律さんの体を傷つけてしまうかもしれない。一番大事なのは律さんだが、子供っぽいって思われたくない。
「……泊まって」
「はあ……俺以外に、絶対に言わないで下さいね」
律さんからの提案で、泊まらせてもらうことになった。母さんに律さんと付き合ったことと、泊まることを送ると頑張れ! ってスタンプが来た。
次の日。アラームで目が覚めると、律さんが隣で起きようとしていて可愛かった。目を擦っていて、猫みたいだった。
おでこにキスをすると、顔が真っ赤になっていてマジで可愛い。メガネをかけると、いつものツンな感じの律さんになった。
「そ、その……朝ごはん、食べるでしょ……スーツも取りに行かないと」
「そうですね……俺も手伝います」
まるで新婚みたいだなと思って、嬉しくなってしまう。一緒にリビングに行くと、藤島が入ってきた。
「りん」
「どういうつもりだよ。言ったよな……律に近づくなって」
「えっ……どういう」
手を繋いでいるのを見た、鬼の形相の藤島に怒られた。俺も睨み返して、しっかりと告げることにする。
「藤島先輩。俺と律さんは、結婚を前提にお付き合いすることにしました」
「なっ……えっと」
「律、それは本当か」
「あっ……えっと、うん」
律さんがゆっくりと、頷いてくれて嬉しくなってしまった。藤島は何も言わずに、苦虫を噛み潰したよう表情をしていた。
そして持っていた袋を、キッチンに置いて出て行ってしまった。これだけは、言っとかないとなってことを律さんに告げた。
「律さん……俺は何があっても、律さんを裏切ったりしないです」
これだけは何があっても、律さんが俺のこと嫌いになったとしても……絶対に俺が、律さんを裏切ることはない。
「律さん、そんな簡単に人を信じることはできないと思います。絶対に何があっても、俺は律さんを傷つけないです」
――――俺が一生をかけて、全力で守る。
少し重たいのも分かってるが、俺は俺の大事なものや人を傷つける奴が一番嫌いだ。だからってわけじゃないが、絶対に裏切るなんてことはない。
それからというもの、色々と考えていた。どうすれば、律さんの不安を解消することができるのか……。
「はあ……」
仕事中もため息が出るぐらいに、悩んでしまっていた。昨日。律さんの様子が、可笑しいと湊から連絡があった。
心配になって連絡したけど、仕事が忙しいと言われてしまった。まただ……何となく、距離を置かれているような気がした。
今日も一日、ため息ばかりをついてしまった。そんな時だった。律さんをロビーで見つけて、声をかけることにした。
「律さん、今お帰りですか? 今日出社なら、言ってくれれば」
「……放っておいて」
「律さん? 俺、何かしました? 避けてますよね」
俺が顔を覗き込むと、とても悲しそうな表情を浮かべていた。もう一度声をかけようとすると、律さんは走って行ってしまう。
咄嗟に腕を掴むと、律さんは俺を軽蔑の眼差しで見てきた。急激に怖くなって、頬を触ろうとすると手を払いのけられた。
「どうし……涙」
「……あんただけは、他のαと違うって信じていたのに」
「律さん! 待って! 話を!」
話を聞いてもらえず、走ってタクシーに乗って行ってしまう。俺も直ぐに他のタクシーに乗って、律さんの家に向かう。
なんで律さんは、俺を拒絶するんだ……。俺何かしたのか……やっと、付き合えたのに。
ダメだ……停めどなく、涙が溢れてきてしまう。とにかく今は、律さんの気持ち聞かないと……。
溢れてくる涙を拭って、律さんの家に向かう。ドアを閉められそうになったから、俺は慌てて足で止めた。
「かな……しろくん……グスッ……」
「りつさん……はあ、はあ」
自分でも驚くくらいに、焦っていたようで律さんが少し怯えているようだった。そんなに俺って、頼りなくて相談すらもしてもらえないのか……。
そう思ったら、また泣きたくなってきた。それでも今は、律さんの気持ちを知りたい。俺が悪いことなら、改善するから。
「りつさ」
「帰って……顔見たくない」
「俺何か、気に触ることしました? あったら直すので、教えて」
「いいから、帰って!」
律さんに俺の胸を押そうとされたから、咄嗟に両手首を掴んだ。更に怯えているようで、目を合わせてくれない。
そんな顔させたいわけじゃない……。優しく抱きしめて、手を引っ張って部屋の中に連れて行った。
それでも目を見てくれない、律さんを見て悲しくなってしまう。リビングのソファに押し倒してしまう。
「かな……しろく」
「何で! ……拒絶するんですか」
こんなカッコ悪いとこ、見せたくないのに……涙が溢れて、止まらなくなってきた。困惑している律さんを見て、自分の子供っぽさが嫌になった。
見られたくなくて、律さんの肩に顔を埋めて泣いてしまった。背中を摩ってくれて、少し落ち着いた。
甘酸っぱいチョコの香りが、漂ってきて嬉しくなってしまった。俺たちはしばらく、そのまま抱きしめあっていた。
そこでソファの前のテーブルの上に、写真が無造作に置いてあることに気がついた。俺が結婚相談所の友人といる所だった。
「律さん、この写真は何ですか」
「……別に、何でも」
「何でもあるだろ!」
思わず大きな声を出すと、律さんが怯えているようだった。マズいな……イラッとしたからって、大きな声を出すなんて……。
怯えている律さんを、直ぐに優しく抱きしめる。震えていたのが、嘘のように落ち着きを取り戻した。
「その、怒鳴ってごめんなさい」
「僕の方こそ、拒絶して……ごめん」
「いいんですよ……理由はこの写真ですか」
「うん……郵送で送られてきた」
郵送か……最近分かってきたが、律さんは嘘つく時鼻を掻く癖がある。今も掻いているってことは、この写真藤島なんだろうな。
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