10話 気にして、欲しいんだけどな……

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10話 気にして、欲しいんだけどな……

 何処か感の鋭い湊くんに聞かれて、僕らはしどろもどろになって答える。湊くんがキョトンとしている横で、小笠原の馬鹿野郎が腹を抱えて笑っていた。  やっぱこんな奴、馬鹿野郎で十分だ。心の中で馬鹿と罵ることに、改めて決めて睨みつける。 「先輩、座りましょう」 「う、うん……」  金城くんに声をかけられて、それだけでドキドキしてしまう。大人しく座ると、金城くんにメニューを渡された。 「何、飲みます?」 「烏龍茶……」 「アルコールとか、飲まないんですか」 「度数の少ないやつでも、気持ちが悪くなるから」 「そうなんですね」  僕のぶっきらぼうな言葉に、彼はニコニコ笑顔で答えてくれる。そんな彼を見て、僕は更に体温が上がってしまう。  彼を見ると、同じように顔が真っ赤になっていた。そんな僕らを見て、湊くんと馬鹿野郎がニヤニヤしていた。 「なんだ、僕らが心配するような感じじゃないね」 「いつの間に、そんなに仲良くなったんだ」 「な、そんなんじゃ……なくもないけど」  二人の言葉に、金城くんは顔をゆでたこみたいに真っ赤にしていた。恥ずかしいから止めて……それに、僕は誰とも付き合うつもりはないから。  二人に揶揄われて少し言い合っていて、そんな様子が可愛いかった。好きだしドキドキしてしまうけど、それでも付き合うことは出来ない。  確実に金城くんは、僕に好意があると思う……。自惚れではなく、間違いないと思う。 「先輩、何食べます?」 「焼き鳥……」 「塩とタレ、どっちがいいですか」 「塩……」  こんなに後ろ向きでめんどくさいのに、嫌な顔せずに話しかけてくる。その眩しい笑顔を、向けてこないでよ。  胸焼けしそうになるじゃん……こんなによくしてくれているのに、この人の想いに応えることは出来ない。  でも少しぐらいは、夢見てもいいよね。少なくとも、同人誌が出来るまではいいよね……。 「湊は昔から、おっちょこちょいなので〜」 「酷いよ! 僕だって、やれば出来る子だよっ!」 「そうだよな。湊くんは出来る子だもんな」 「そうだよ! 蒼介さんは、分かってる〜」  よく分からないけど、湊くんの昔話で盛り上がっている。そんな様子を見つつ、僕は一人で烏龍茶を飲んでいた。  他にやることもないから、適当に並べられた料理を食べていた。別にさ……昔の話をするのもいいけど、僕が入れないじゃん。  悪気がないの知ってるけど、だからこそアウェー感がある。居心地が悪いと感じてしまって、少し息苦しくなってしまう。  凛斗以外と仲良くしてこなかったのが、こんな時に悔やまれるなんて……どうやって、仲良くするのか分からない。 「先輩、何か飲みますか?」 「……烏龍茶でいいよ」 「分かりました。何か食べたいものありますか?」 「……たこ焼き」 「分かりました」  僕の適当な返事にも、ニコニコ笑顔で返してくれる。本当にこれ以上、好きにさせないでよ。  それでも何かしら、話を振ってきて混ぜてくれた。こんなに優しくて気も使えて、イケメンなんだから……。  モテないはずないよね……僕以外にも同じように、接しているのかな……そんなこと思う権利も、資格もないのに……。 「先輩、何か頼みますか?」 「……ちょっと、トイレ」 「あっ……」  その無性の優しさが、今の僕にはとても辛く感じてしまう。トイレなんか行きたくなかったけど、あの場にいるのが辛かった。  外階段を見つけて、そこに逃げてしまった。はあ……とため息をついてしまって、更に憂鬱な気分になってしまう。  そんな時に、スマホが鳴り響く。画面を見てみると、凛斗からの着信だった。何となく出たくなかったけど、出ないと煩いから仕方なく出ることにした。 「もしもし、凛斗」 「律、今家か?」 「うん、そうだよ……ふわあ」 「眠いのか?」  心配してくれているのは分かるけど……胸が痛むが、嘘をつくことにした。 「うん……仕事詰めだし、同人誌もあるし」 「そっか、じゃあ。今日も、行かないほうがいいか?」 「うん、作り置きのおかずもあるし」 「そっか、頑張れよ」 「うん、おやすみ」 「おう」  電話を切ってまたもや、ため息をついてしまう。三人が僕のことを、受けて入れてくれている。  そのことが嬉しいのと同時に、仲良くなんて出来ない。何故か今まで仲良くしていた子も、いつの間にか距離を取ってきたから。 「何もしてないのに……」 「先輩、何かあったんですか」 「……ごめん」 「何で、謝るんですか」  僕がボソリと呟くと、いつの間にか金城くんが扉のところに来ていた。今は顔を見たくなくて、踵を返して横を通り過ぎようとする。  しかし右腕を掴まれて、強制的に顔を見ることになった。その時の彼の表情が、とても苦しそうで胸が痛くなってしまう。  何でそんな顔をするの……僕が悪いのかな……そう思ったけど、その表情が綺麗で思わず頬を触ってしまう。 「かなし……んっ」 「あっ……すみません、つい」  頬に触れた僕の手を取って、何故か端正な顔が近くにあった。唇に何やら、暖かいものが当たった。  直ぐに状況が理解できなくて、呆然としてしまう。彼は僕から距離を取って、顔を真っ赤にして片手で顔を覆っていた。  しばらく理解出来ずにいたけど、段々と状況が飲み込めてきた。途端に恥ずかしくなって、顔を見れないでいた。 「……すみません、あの……俺」 「……嫌じゃないから、気にしないで」 「気にして、欲しいんだけどな……」 「えっ?」  思わず顔を上げて見てみると、少し複雑そうな顔をしていた。可笑しな人だな……優しい人だから、気にし過ぎてしまうと思ったのに……。  気にして欲しいって、どういう意味なのだろうか……。僕らの中に変な空気が流れてしまう。 「クシュン……」 「あっ、寒いですよね。戻りましょう」 「……あっ、うん」  僕が立ちすくんでいると、手を繋がれて優しく微笑まれた。繋がれた手から、伝わってくる温もりを手放したくなかった。  それからと言うもの、出社の日に関わらず必ずと言っていいほど四人で飲むようになった。その時間は、いつも楽しくてあっという間に過ぎていった。  飲みに行く回数を何度も重ねると、打ち解けていけたと思う。今日もいつものように、四人で飲んでいた。
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