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11話 思わせぶりな態度
最初の頃は、笑うことが出来なかったけど……今は少し、砕けて話せるようになった。そこで湊くんに雑談の中で、とあることを聞かれた。
「先輩は誕生日、いつですか?」
「六月十五日だよ。湊くんは?」
「一月十日ですよ。因みに透真は、八月三十一日ですよ」
「ふ〜ん」
僕は興味なさそうに答えたけど、隣にいる金城くんを見る。すると微笑んでくれて、直ぐに顔が熱くなってしまった。
急激に恥ずかしくなって、思わずそっぽを向いてしまう。
そこで、話題を変えることにした。そこでやっぱ僕と湊くんは、色々と違うんだなと思ってしまった。
「湊くんと金城くんって、あの進学校出身なの?」
「はい、そうですよ。透真に教えてもらって、ギリギリでしたけど」
「よく言うよ。英語と社会は、満点だっただろ」
「そうだっけ? 透真だって、数学と理科が満点だったでしょ」
二人とも凄いな……あそこの学校って、相当偏差値高いでしょ。αの金城くんは分かるにしても、同じΩとは思えないぐらいに優秀だ。
αにしか上級という概念はないけど、もしΩにもあるのなら間違いなく湊くんは上級だろうと思った。
もし階級分けされるのなら、僕は上級の反対の下級になるだろう。自分の不甲斐なさが、露呈しただけだった。
飲み会が終わって、バカップルが腕を組んで夜の街に消えていった。いつものように、金城くんが送ってくれることになった。
いつの間にか僕たちは、帰る時に手を繋ぐことが暗黙の了解になっていた。河原の土手を歩いていた時に、彼が立ち止まったから僕も止まる。
「宮澤先輩はもっと、自分に自信を持ってください」
「……あんたに何が分かるの。勝手に決めつけないで」
完全に八つ当たりなのも分かってるけど、それでも自分の気持ちが分からない。それなのに、彼は微笑みながら言ってくれた。
「知らないから、知って行きたいです」
「……ズルい」
高校の時の、恋人である鹿野のことを思い出した。何であいつと、同じようなこと言ってくるんだよ。
しかも本気の眼差しを向けてきて、目を逸らすことが出来ない。そんなの諦めることなんて、出来なくなるじゃん。
「先輩……」
「金城くん……」
僕たちは当たり前のように、体が近づいていく……僕が背伸びすると、金城くんが少し屈んでくれた。
腰を支えてくれて、優しく頬に触られた。お酒を飲んでないのに、体が火照っていってしまう。
優しく触れるだけのだったけど、心が満たせされていくような感じがした。この曖昧な関係はどんな名前がつくんだろう……。
「先輩……俺」
「……えっと」
「帰りましょうか」
「う、うん……」
いつもの笑顔になって、再び手を繋いで歩き始める。手から伝わってくるこの熱を、どうしても手放すことが出来ない。
僕たちはいつの間にか、キスだけはするようになった。こんなこと、間違っているって分かってる。
それでも彼が僕の見る瞳が、キラキラ輝いていて……拒むことが出来ない。これが運命の番の効力なのか、それとも彼自身の魅力なのか。
ネオンの灯りや街灯が、彼を照らして後光が差しているように見えた。分からないから、もっと知りたいと思った。
早いもので六月も半ばになって、夜になっても暑いようになってきた。最初は四人で飲みに行っていたけど、いつからか二人で行くようになった。
「律、今日も忙しいのか」
「あっ、うん。締め切りがヤバくて」
「そうか、手伝えることがあったら言えよ」
「うん、分かった」
凛斗には申し訳ないけど、金城くんと飲むことは黙っている。反対されるに決まってるから。
若干の罪悪感もありつつ、僕は彼と一緒にいることが普通になってきている。あの時間が楽しくて、永遠に続けばいいのになと思ってしまう。
今日もいつもの、個室になっている居酒屋で二人で飲んでいた。別に不満はないし、何処だっていいんだけど……なんか、物足りない。
「律さん、烏龍茶以外でもたまにはいいじゃないですか?」
「考えるのが、めんどくさくて」
「なるほど……ここ、ミックスジュースが美味しいですよ」
「ふ〜ん、じゃあそれで」
言われるがままに、金城くんのおすすめを頼んだ。こうして二人で過ごすように、なって気がついたことがある。
この人僕が思ってた何十倍も、優しくて紳士的だ。階段があれば、そっと当たり前のように手を差し伸べてくれる。
今だって飲み物を率先して頼んでくれて、僕のことを優先している。食べ物だってそう、僕の好みを熟知してきたようで予め頼んでくれている。
今更ながら、この人といる時間はとても楽しい。時間があっという間に、過ぎていってしまう。
「つさん……律さん」
「んっ? な」
「どうしました? 何かありました?」
僕がぼーとしていると、いつの間にか隣に来てまたもやキスをされた。この人はどんな感情で、こんなことしてくるのかな。
誰にでも同じようにしているのかな……人の気も知らないで。胸に黒いものが込み上げてきた。
「律さん? 具合でも……」
「……んで」
「……あっ、その……今日、誕生日ですよね。プレゼント持ってきたので、飲んで下さい」
誕生日か……自分でも忘れてたけど、今日だったか……。僕が明らかに拒絶しているのに、構わずに小さな紙袋を鞄から取り出していた。
それを僕に渡してきたけど、持ったままで開けることはしなかった。何が入ってるか知らないけど、一体どういうつもりなの。
毎日のように電話しても、こうやって飲みに来ても……キスは何度もしていて、嫌じゃない。
寧ろ気持ちよくて、何度もしたいって思うけど……。僕が何も言わずに黙って俯いていると、優しく頭を撫でてきた。
「……どういうつもり」
「えっ? ですから、たんじょ」
「そうじゃないでしょ! そうじゃ……」
僕が思わず大声を出して、金城くんの方を見ると複雑そうな表情を浮かべていた。君は僕をどう思ってるの……。
僕はこの人とどうなりたいの……少なくとも、自分の気持ちは分かってる。他の人に取られたくない。
「き……」
「えっ、今なんて……」
「好きだ……」
いろんな感情が混ざり合って、つい僕は本心を言ってしまった。少し後悔してしまうが、出してしまった言葉は取り消すことは出来ない。
しばらく経っても何も言ってこない……気になって見てみると、戸惑っているように見えた。
何その顔……キスしてきて、散々思わせぶりな態度取ってきて……それなのに、そんな困ったような表情をしないでよ。
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