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13話 嘘つかせてごめん
従兄弟って、嘘でしょ……それに浮気って……なんで僕が、したことになってんだよ。色んなことがありすぎて、頭が追いつかない。
もういい加減、イライラしてきた。それでもまだ、鹿野の方を見る勇気はなくて……それでも、この際だからはっきり言う事にした。
「は? 何言ってんの……そっちが浮気したんじゃん! それなのに……なんで、僕が」
「お前こそ、何言ってんだよ。俺は証拠写真を見たんだぞ!」
証拠写真? そんなのあるはずないじゃん。浮気なんてしてないんだから、意味の分からないことを言わないでよ。
そう思ったけど、僕だって凛斗に言われてそのまま鵜呑みにした。僕に鹿野を糾弾することは出来ないのかもしれない。
それでもやっぱ、一方的に言われるのはかなり堪える。するといきなり、金城くんに抱きしめられた。
その瞬間、甘い香りが直接香ってきて不安が飛んでしまった。やっぱ、この匂いとっても落ち着く。
「それは本物なのか、律さんに聞いたのか」
「それは……」
「それなのに、一方的に決めつけたんだろ」
僕が言いたいことを、はっきり言ってくれた。周りで傍観していた人たちも、確かにと言っている。
「あっ……それは、みやざ」
「俺の恋人をこれ以上、侮辱すんじゃない」
鹿野が何か言いかけたけど、金城くんが遮っていた。見上げてみると、鹿野を見て本気で怒っていた。
その表情が不謹慎だけど、凄く綺麗だった。見惚れていると、僕の視線に気がついてこっちを見て笑っていた。
思わず目を逸らしてしまうと、腰を支えられた。そのまま何も言わずに、歩き始めたから僕もそのペースに合わせる。
「みやざ」
「話しかけんな」
鹿野がまた何かを言いかけたけど、金城くんが一喝していた。少し声色と顔が怖かったけど、僕のためだと思うと嬉しかった。
何も考えていなかったけど、公園のところで止まった。僕が不思議に思っていると、優しく微笑んで公園の方を指差していた。
「公園に行きましょう」
「あっ……うん」
そのまま腰を支えられて、屋根のあるベンチまで連れて行かれた。僕が座ると隣に座って、優しく微笑んでいた。
その表情が綺麗で、目を逸らしてしまう。そこでさっきまで、いきなりのことで忘れていたけど……。
恋人って言ってたけど、嘘ついてくれたんだよね。鹿野がいたから、僕のためについてくれたんだ。
やっぱこの人は、優しいや……でもこれ以上、その優しさに甘えることは出来ないよね。
立ち上がって僕は、金城くんの前に立った。優しく微笑むと、彼も優しく微笑んでくれた。
「嘘つかせてごめん」
「……その、明日って予定ありますか」
「えっ……」
「話したいことがあります」
本当はもう会うのは、止めにしようと言おうと思った。それなのに、そんな捨てられた子犬のような瞳で見られたら……。
言えないじゃん……綺麗な瞳で見つめないでよ。首を縦に振るしかなかった。すると、嬉しそうにしていた。
「送りますよ」
「いいよ」
「俺がしたいんです」
立ち上がって、僕の手を取って歩き始める。僕のペースに合わせてくれて、やっぱ心の底から優しいんだよね。
もう少し明日だけ、その優しさに甘えさせてよ。次の日。お昼頃に駅前に集合ということで、向かったんだけど……。
駅の改札のところで、ニコニコ笑顔を浮かべている金城くんを見つけた。今日は一段と光り輝いている。
「はあ……やっぱ、かえ」
「律さん、おはよう……じゃないですね。もう午後ですね」
「あっ……うん」
「さあ、行きましょう」
いつもの調子で僕の手を取って、改札へと向かう。それにしても、他の人たちから見られている。
いや、僕じゃないな……金城くんを見ているんだ。そりゃあこんなに、カッコいいんだもん。
そう思ったら、急に足がすくんでしまった。すると彼が微笑んでくれて、急に不安が飛んでいった。
「律さん、電車に乗りましょう」
「うん……」
ホームについて、直ぐに電車が来たようで手を引かれて電車に乗った。別にそこまでしなくてもいいのに……。
そう思ったけどその熱を、手放すことは出来なかった。空いている席に座ららせてもらって、前にニコニコ笑顔の金城くんがいた。
終始ニコニコしていて、その笑顔が太陽よりも眩しく感じた。直視出来なくて、目を逸らしてしまう。
「暑かったりしません?」
「だいじょ……ぶ」
あんたの方が暑いよ……そう思ったけど、まあ嬉しそうにしていたからいいとしよう。
それに何をそんなに嬉しそうに、鼻歌まじりで電車に乗ってんだよ。
変な奴だなと思いつつも、僕も最後の思い出にいいのかなと思った。何のためのお出かけなのか、何処に行くのかも分からないけど……。
そんなこと、考えちゃいけないよね。頭を切り替えて、金城くんに着いていこうと思った。
「で、どこ行くの」
「着いてからのお楽しみです」
終始ニコニコ笑顔の、金城くんに何も言えない。そんな風な感じで、お目当ての駅に着いたようで手を差し伸べられた。
正直、突っぱねたいけど……ここで拒否ると、逆に目立ちそうで大人しく手を掴んだ。電車から降りると、遊園地の文字が見えてきた。
「遊園地に行くの」
「そうですよ。ジェットコースターとか、乗りますか?」
「まあ、多分……大丈夫だと思う。金城くんは?」
「……湊がよく乗ってたんで、保護者として」
ずっと疑問に思ってたけど、幼なじみで同い年だよね? 何、保護者としてって……たまに変なこと言ってるんだよね。
湊くんか……仲良いから、付き合ってたりしたのかな。僕と凛斗みたいな感じではないし……。
こんなこと考える資格、僕にないか……怖くて何も出来なくて、いつも同じことの繰り返しで……。
「律さん、最初。あのジェットコースター乗りますか?」
「あっ、うん……」
「具合悪いとかなら、無理には」
「大丈夫、行こう」
僕が答えると、優しく笑っていた。ジェットコースター乗り場に来ると、流石日曜日凄い混雑だった。
まあいいか、まだ三時頃だし……ずっと手を繋いでいたんだけど、七月になって暑くなってきた。
「暑いですね。飲み物でも買ってきますか?」
「あー、うん。必要かもね……暑いもんね」
僕がTシャツの裾を持って、パタパタすると何故か止められた。顔が真っ赤になっていて、僕よりもあんたの方が辛そうじゃん。
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