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15話 むぎゅっと
耳元で囁かれて、体がフワッと浮いた。おそるおそる目を開けると、お姫様抱っこをされていた。
恥ずかしかったけど、優しく微笑んでいる横顔がカッコよくて何も言えない。心臓の鼓動が煩いな。
そう思ったけど、この音僕のじゃない。金城くんの音だ……そう思ったら、急にその音が心地よく思えてきた。
甘い匂いが漂ってきて、幽霊に見られていたけど気にしないことにした。完全に周りから、引かれているけど気にしない。
外に出て近くのベンチに座らせられた。隣に座ってきて、優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
「ここに座ってください」
「……ごめん」
「なんで、謝るんですか」
「だって、僕のせいで最後まで」
そう言うと頬を、むぎゅっとされて揉まれた。僕は突然のことで意味が分からずに、只々されるがままになっていた。
「なに、すんの」
「これから、僕のせいでとか言ったらむぎゅむぎゅします」
「なんで……そんなに、優しいの」
「そんなの決まってるじゃないですか」
少し悲しそうにしている彼を見て、何も言うことが出来なかった。両手で頬を触られて、その暖かさにドキドキしてしまう。
――――やっぱ僕は、この人が好きだ。
今更ながらに改めて自覚してしまう。そんなの意味ないのに……もう今日で、会うのはお終いなのに。
僕は立ち上がって、今できる精一杯の笑顔で伝えることにした。
「次、メリーゴーランドがいい」
「いいですね。写真撮ります」
「そんなのいいから、乗ろう」
「分かりました」
すると立ち上がって、手を差し伸べてきた。僕は一瞬戸惑ったけど、手を繋がれて歩き始める。
この人の体温はとても心地いいんだよね……。運命の番だからなのか、それとも好きだからなのか……。
もっともっと、知りたいし……僕のことをもっと知ってほしい。だけど、今日で終わってしまう。
「いい感じで空いてますね」
「あっ、うん……」
「クスッ……行きましょう」
手を引かれて、僕たちはメリーゴーランドの中に入って行った。僕はライオンに乗って、隣の木馬に彼が乗った。
少し辺りが暗くなってきて、ちょうど彼の後ろにライトアップされているような感じになった。
綺麗だって、素直に思って見惚れてしまう。優しく微笑まれて、恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「あっ、動き始めましたね」
「あっ……うん」
夜になってきて、後少しで終わってしまう。こんな楽しいの何年振りだろう……凛斗以外と、出かけることなかったから。
「律さん、綺麗ですね」
「あっ、うん……夜景が綺麗になってきた」
「綺麗なのは、律さんですよ」
「つっ……」
この人は、もうっ……そんなことをよく言えるよね。綺麗なのは僕じゃなくて、あんたの方でしょ。
そんなことを言えるような、素直な性格してないけど……。僕が湊くんみたいな素直に、甘えることができる性格だったらな……って、時々思うんだよね。
そんなことを思っても、そうなれるわけじゃない。僕と湊くんは全く違うから、同じなわけない。
それでも素直な湊くんが、羨ましいのと同時に……少しだけ、妬ましいって思ってしまう。
そんなことを考えてる自分が、とても嫌だけど仕方ない。僕の性格はもう既に、歪んでしまっているから。
「律さん、終わりましたよ」
「あっ……もう、遅いし。かえ」
「最後に、観覧車に行きましょう。伝えたいことがあるんです」
よく分からないけど、手を差し伸べてくれて手を繋がれた。僕のペースに合わせて歩いてくれて、観覧車までの道のりを歩き始める。
最後か……これが本当の本当に、最後になってしまう。悲しいし寂しいけど、金城くんに会う前の日常に戻るだけだ。
――――それだけなのに、どうしてこんなに悲しくなってしまうんだ。
「律さん、乗ってください」
「う、うん……」
ゆっくりと引っ張ってくれて、観覧車に乗った。何故か前じゃなくて、隣に座ってきて優しく微笑んできた。
もう既に夜になっていて、ネオンの明かりが差し込んできた。終わりか……短い恋だったな。
むしろ始まってもいなかったよね。勢いはいえ、告白したけど振られてしまったのだから。
「律さん、言ってましたよね。思わせぶりな態度取らないでって」
「……ん」
「それに関して、本当に反省してます」
「いいよ、別にもう……今日で終わりなんだし」
「えっ……」
僕がそう言うと、この世の終わりみたいな表情を浮かべていた。なんでそんな顔してんの……。
あんたが振ったんじゃん……やっと、前に進めるかもって思ったのに。そんなのはあんたには、関係ないと思うけど。
そう思っていると、急に両肩を掴まれて強制的に顔を見ることになった。少し怒っているように、見えて少し怖かった。
「律さん、今日で終わりってどういう意味ですか」
「……そのままの意味だよ」
「……なんで」
「僕はもう、恋愛で傷つきたくないから」
僕は真っ直ぐに見て、自分の素直な気持ちを伝えた。金城くんは俯いていて、何を考えているのか分からなかった。
肩を掴んでいる手が、震えていて緊張感が漂っていた。そして静かに顔を上げて、僕の目を見て真面目な顔をして言った。
「好きです。俺は、律さんが好きです。俺と付き合ってほしいです」
「……じゃあなんで、あの時……断ったりしたの! そういうのを、思わせぶりって言うんだよ!」
「……それは」
僕がそう聞くと、直ぐに黙ってしまった。ほら、やっぱ思わせぶりじゃん。なんなの、この優柔不断。
「もういいよ」
「何がいいんですか」
「正直、君の気持ちが分からない」
「好きで」
「そうじゃなくて! ……僕の気持ち、なんだと思ってるの」
あーもう、カッコ悪い。こんな風に喧嘩するつもりなかったのに……今日は楽しく、終わらせたかったのに。
僕だって人のこと言えない。好きだけど、付き合いたくないのに……振られたら、悲しくなるって意味分かんない。
僕に人のことを糾弾する資格ないじゃん。そう思ったら泣きたくなってきた。すると優しく抱きしめてきた。
「すみません」
「謝ってばかりじゃなくて、しっかりと言ってよ」
「誰かと付き合いたいとか、初めてで……どうすれば、いいのか分からないんです」
誰かと付き合いたいって、思ったことない……物凄く恥ずかしいこと、言ってる自覚あるのかな。
そう思ったけど、本気で言っているのが分かった……すると急に顔を見てきて、とあることを聞いてきた。
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