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18話 拒絶するんですか
金城くんのお陰なのかな……ついニヤけてしまう。そんな時に、いつものように凛斗が入ってきた。
彼と付き合うってことを告げたあの日から、何となくギクシャクしてしまった。気まずくて、連絡をすることができなかった。
「律……大事な話がある」
「話……って、何」
「金城のことだけど……やっぱ、別れた方がいい」
「えっ……」
突然やってきて、いきなり何を言って……ソファの横に来て、茶封筒を渡してきた。僕が手に取って、呆然としていると訳の分からないことを言ってきた。
「あいつ、他の女とデートしてたぞ」
「……な、に言って」
「その封筒の中身、見てみて」
心臓がやけに煩くて、僕は震える手で中身を見てみる。そこには彼と知らない女性が、楽しそうに笑っている写真が入っていた。
カフェだったり、レストランだったりした。しかもホテル街に、消えていく写真もあって……。
僕の目から大粒の涙が、溢れ出てしまった。信じたい……信じたいけど、こんなの見せられたら、どうすればいいのか分からない。
鹿野のことを思い出してしまう……あっちが悪いのに、何故か僕が浮気をしていたことにされていた。
「だから言っただろ……恋愛なんて、するなって」
その時の凛斗の表情がいつもよりも、怖くて体が強張ってしまう。それからどんな会話をしたか、覚えていない。
いつの間にか、凛斗は帰ったようだった。鹿野とは違って、金城くんがそんなことするはずない。
頭では分かってるし……信じたいけど、何処か昔のことがフラッシュバックしてしまう。
流石にあの時と同じようなことには、ならないと思う。だけどどうしても……心の底から、信じることが出来ない。
「……手紙」
彼からもらった手紙を見て、涙が止まらなくなってしまった。その手紙に書いていることが、嘘だとはどうしても思えない。
漫画やアニメだと、姉妹とか従姉妹とかの可能性もあったりするよね……。
そこで涙を拭いて、本人に聞こうかと一瞬思った。だけど、やっぱそんな勇気は出ない。
「湊くんに、聞いてみよう……」
意を決して電話をすると、直ぐに出てくれた。優しくて元気な声が聞こえてきて、つい泣いてしまう。
「湊くん……聞きたいことが、あるんだけど」
「律さん、どうしたんですか? 泣いてます?」
「……何でもないよ。あのさ、金城くんに姉妹とか従姉妹とかの女性っている」
「一人っ子ですし、従姉妹とかいるかもですけど。少なくとも、近くにはいないです」
いないのか……ってことは、浮気してるってこと? そんなはずないって、分かってるけど……。
彼の性格上、そんなことを隠せるような感じがしない。って思うけど、考えてみたら家族構成すらも知らない。
「あっ……でも」
湊くんが何かを言っていたけど、ショックが大きすぎて何も聞こえなかった。いつの間にか、電話を切っていたようだった。
それから何度も電話や、メッセージが来ていた。このままだとよくないと思ったから、ひとまず大丈夫と連絡をした。
金城くんからも連絡が来ていたけど、仕事が忙しいと連絡しておいた。その日は、一晩中泣きじゃくってしまった。
「仕事行きたくない」
今日はよりにもよって、出勤日である。だけど高校の時と違って、休むわけにはいかない。
重たい腰を上げて僕は、会社へと向かう。今日は運のいいことに、金城くんにも湊くんと馬鹿野郎に会うことはなかった。
いつものように仕事の打ち合わせが終わり、帰ろうとしてロビーに向かう。そこで甘い香りが漂ってきた。
「律さん、今お帰りですか? 今日出社なら、言ってくれれば」
「……放っておいて」
「律さん? 俺、何かしました? 避けてますよね」
何かしたって? その程度の認識しかないんだね……僕は悲しくなって、その場から逃げ出してしまう。
腕を掴まれて咄嗟に顔を見ると、凄く混乱したような瞳を浮かべていた。掴まれた腕が熱くて、それだけでドキドキしてしまう。
だけど今は、それがとても……言い表せないような気持ちになってしまう。信じたいのに、信じる事ができない。
「どうし……涙」
「……あんただけは、他のαと違うって信じていたのに」
頬を触ってこようとしたから、咄嗟に手を払いのけてしまう。周りにいた社員からは、何事かと注目を浴びていた。
色々と考えたくなくて、自分で涙を拭った。僕はそのまま会社を後にしたけど、後ろから何を言われているようだった。
「律さん! 待って! 話を!」
今は何も気聞きたくないし、知りたくもない……ちょうどよく会社の前に、タクシーがいたから乗る。
行き先を告げると直ぐに、タクシーが発車する。会社から大慌てで、出てきた金城くんが目に入る。
今はもうそんなこと、どうでもいいか……抑えきれずに、涙が溢れ出てしまう。家に着いてドアを閉めようとすると、足で止められてしまう。
「かな……しろくん……グスッ……」
「りつさん……はあ、はあ」
息が荒くて急いで来てくれたのは、明白だった。それでも……だからこそ、僕は何も言いたくなかった。
彼の口から真実を聞くのが、怖くて惨めだからだ。もうあんな思いは、二度としないって恋なんてしないって思ってたのに……。
「りつさ」
「帰って……顔見たくない」
「俺何か、気に触ることしました? あったら直すので、教えて」
「いいから、帰って!」
僕が彼の胸を押そうとすると、両手首を掴まれた。雰囲気からして、本気で怒っているようだった。
怖くて顔を見ることができない。すると優しく抱きしめられて、部屋の中に連れて行かれた。
抵抗することができずに、リビングのソファに押し倒されてしまう。反射的に顔を見ると、目に大粒の涙を浮かべていた。
「かな……しろく」
「何で! ……拒絶するんですか」
僕の顔に彼の涙が落ちてきて、胸が張り裂けそうになった。優しく抱きしめてきて、僕の肩に顔を埋めて泣いているようだった。
思わず背中を摩ってあげると、少しずつ泣き止んだようだった。僕たちはしばらく、そのまま抱き合っていた。
「……もう、いいでしょ」
「ぐすんっ……もう、逃げないでください」
「分かったから、退いて……重い」
僕がそう言うと、彼は渋々と言った様子で起き上がった。僕のことも、優しく起き上がらせてくれた。
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