2話 二度と恋はしない

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2話 二度と恋はしない

 運命の番ってそんなの一生、会わないと思っていたのに……。こんなのって酷いよ……僕が何したっていうんだよ。  恋愛なんてしたくない……番なんてもっての外だ。体が熱くて上手く息が出来ない……むせかえるような甘い匂いにクラクラする。 「ほら、薬」 「う……ん……ありが」  凛斗が抑制剤を飲ませてくれて、少し体が楽になってきた。それでも甘い匂いが、全身を包み込んでるようで変な感じがする。 「透真! だいじょ」 「湊は、離れて。ラット起こしてるから、危険だ」 「はあ……はあ」  透真と呼ばれた人は、自分の手を噛んで耐えているようだった。広瀬くんはΩだから、近づくと危険だ。  それでも一目散に駆け寄っていて、仲が良さそうなのは分かった。僕がぼんやりと見ていると、凛斗に声をかけられた。 「律、ここは一旦。外に空気吸いに行こう」 「うん……」  凛斗に支えられて、その場を後にする。後ろを振り向くと、透真と呼ばれた人と目が合った。  茶髪で色黒で切れ長の瞳に、まつ毛が長くかなりのイケメンだった。正直言ってタイプど真ん中で、興味を持ってしまった。  それでも、もう……。あの時から、恋はしないって決めたから。外階段の所に行って、僕らは話をしていた。 「運命って言っても、関係ないよな」 「もちろんだ。僕はあの時に、もう二度と恋はしないって決めたから」 「ああ、それがいい……俺のためにも」 「えっ?」 「なんでもない」  凛斗の言った意味が分からなかったけど、特に気にしていなかった。僕らはそのまま、荷物を持って帰ることにした。  外の空気が冷たくて、火照った体が冷めてきた。僕は夜景を見ながら、昔のことを思い出していた。  ――――時は約十二年前に遡る。  放課後。同じクラスのαの男性に、告白されたのだ。季節は秋になって、少し肌寒くなってきた頃合いだった。  話したこともなかったし、名前を知っているだけの間柄だった。名前は鹿野昴と言って、興味はないがかなりのイケメンだ。  左目の下にホクロあって、女子の中では大人っぽいらしい。僕にはよく分からないし、二次元の方が最高だ。  サッカー部に所属していて、性別やバース性関係なくモテる。いつも誰かと一緒にいて、一人になったところを見たことがない。  タッパがあって茶髪で、少しチャラい印象がある。そんな奴が接点もない、僕なんかを好きになるはずがない。 「宮澤、俺は君が好きだ。俺と付き合ってほしい」  βやΩとは基本的に仲良くするけど、αとは距離を取っていた。そのため好きに、なってもらうような要素はないはずだ。  どうせこいつも、他のαと同じなのだろう。Ωで一回ぐらいは、遊びたいって思う奴が多い。  好きでΩで生まれた訳じゃない。それなのに、Ωだってだけで何かと制限される。両親がΩな時点で、特に期待もしてなかった。  別に両親のことを、恨んでいるわけじゃない。優しくて大好きな両親だから……それでも、僕はΩである自分が嫌いだから。 「宮澤……返事を聞かせて欲しい」 「無理だ……」 「ちゃんと考えて欲しい」 「何を考えるんだよ」  僕に何を求めているんだよ。話したこともないような奴について、何を考えるんだよ。  そもそも頭も良くて、スポーツも出来て……身長も高くて、顔もいい。そんなに僕が欲しいもの全て、持っている奴に何が分かる。 「宮澤、俺は君が好きだ」 「まず、それが分からない。僕の何を見たの? 何を知ってるの?」 「知らないから、知りたい……それじゃダメなのか」 「はあ……一ヶ月経っても、僕の気持ちが変わらなかったら。その時は、諦めてよ」 「ほんとかっ! よっしゃあ!!!」  別に付き合うなんて言ってないのに、ガッツポーズをしている鹿野が可愛かった。思わず笑ってしまって、二人で爆笑してしまう。  その時の鹿野の顔が、ほんのちょっぴりカッコよかった。それからというもの、鹿野は僕の嫌なことは絶対にしなかった。  今までαのことを、過去の経験ってだけで毛嫌いしてた。寧ろ色んなことを話してくれて、友達にも紹介してくれた。  鹿野の友達の中に、小笠原蒼介がいた。特にこれと言って、何かをされた訳じゃないけど……なんか、ムカついた。  でもこの幸せは、仮染めだったんだ……少なくとも、彼と一緒にいる時は幸せだったんだ。あの時までは……。 「宮澤、その気持ちを聞かせてほしい」 「もう一ヶ月か……」 「ああ、あのさ……この一ヶ月で、更に君のことが好きになった。俺と付き合って欲しい」  そう言って、頭を下げて右手を差し出してきた。正直……かなり不安だったし、誰かと付き合うなんて考えたこともなかった。  それでも目の前で、手を振るわせながら告白してくる鹿野を信じてみようと思った。  僕が手を繋いでみると、不安そうだった鹿野の顔が一気に元気になった。それはそれとして、手汗がびっしょりだった。 「手汗、どうにかならない?」 「あっ……ごめん」 「ふっ、別に嫌じゃないから」  僕が冗談半分で言うと、顔が真っ赤になって恥ずかしがっていた。落ち込んだり喜んだり、忙しいな。  生の百面相初めて見たよ。その様子が可愛くて、恋していると自覚した。僕は彼の手を、再び強く握って目を見て微笑んだ。 「もし浮気したら、許さないから」 「しないよ。宮澤しか見てない」 「絶対だからね」 「ああ、もちろんだ」  僕たちは抱きしめ合って、お互いの顔を見つめ合った。レモンみたいな、爽やかな香りに癒された。  優しくて自然な感じの、この匂いが落ち着かせてくれた。この時は永遠とまではいかなくても、この人となら大丈夫だって思えた。  しかし結論から言えば、付き合ったりなんかしなければよかった。告白された時に妙な提案をせずに、きっぱり振ればよかったんだ。  一週間後。僕がいつものように、部屋のベッドで寝転んで漫画を読んでいると凛斗が入ってきた。  いくら幼なじみで、家が隣同士とはいってもな……ほんと、少しは遠慮しろよな。そう思っていつものように、小言を言うことにした。 「凛斗、少しはノックぐらいしろよな」 「あのさ……言いにくいんだけどさ」 「なんだよ……」  いつもとは雰囲気が違って、深刻そうな表情を浮かべていた。どうしたんだろうと思って、起き上がって聞いてみる。
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