22話 透真side(1) 運命

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22話 透真side(1) 運命

 俺はαの両親の元に生まれた。特に裕福でもなく、かといって別にお金に困っているわけでもない。  特に不満もなかったし、望みも特になかった。そんな時に出会ったのが、両親の足にしがみついて泣いている湊だった。  子供ながらになんとなく、この子を守らなくてはと思った。湊に元気いっぱいに駆けて行った。 「ねえ〜君の名前は? 俺、金城とーま!」 「透真でしょ。あれもしかして、広瀬くんと真美じゃん! 久しぶり!」 「香織じゃん! 金城くんに! 久しぶり〜」  そこで俺の両親と湊の両親が、高校の同級生だったことが判明。湊は泣きながら、俺を見ている。  そこで、俺は湊に手を伸ばした。それでも怯えながら、両親の足にしがみついていた。 「湊くん! あそぼ!」 「で、でも……僕」 「大丈夫! 俺が引っ張っていくから!」  何の根拠もなかったけど、自信だけはあったんだ。それから両親にお兄ちゃんになってねと、言われていた。  気がつくと、俺はお兄ちゃんになっていた。湊は優秀だし、料理の腕以外は……。  だから、俺が引っ張っていくのを中学に入ったら終わりだと思っていた。  しかしバース性というのは、時に非情である。優秀とか関係なく、どうしてもヒートが来てしまう。 「みな……ほら、飲んで」 「う……ん」  湊にヒートが来た時に、俺は当てられながらも必死に抑制剤を飲ませる。それが俺に出来る、お兄ちゃんとしての行動だった。  中学二年の時に俺に彼女が出来て、湊が気を遣ってくれるようになった。自然と距離ができて、寂しいような感じがした。 「金城くんって、私のこと好きじゃないでしょ」 「えっ? そんなこと」 「広瀬くんのこと優先じゃん!」  確かにその子の言うとおり、何かあれば湊を優先していた。でもそれは俺にとって、自然の行動だった。  だからなのかな……湊に対して恋愛感情というのは、全く湧かなかった。それでも絶対に、湊以外に優先出来るものがなかった。  高校に入学してから、以前よりも俺たちはモテ始めた。俺にとって、湊が幸せにならないと意味がない。 「どうする? 正直、めんどくさい……入学して約半年で、十人以上だよ」 「提案なんだけど、付き合わね?」 「……はっ! そんな目で見てたなんて、ごめんっ! 気がつかなくて!」 「そんな、小芝居はいいよ」  変な小芝居をし始める湊に、呆れつつも湊を守るためにはそうするしかなかった。自分でも可笑しな、提案だってことは分かっている。  それでも湊に本当に大事な人が出来るまでは、湊を守るのが俺の役目だと思っていた。  そんなのは言い訳で、湊を隠れ蓑にして誰とも付き合いたくなかったのだ。告白されて付き合ったのに、湊優先にしてるのが許せないって可笑しいだろ。 「カモフラージュだよ」 「どういうこと?」 「俺らが付き合っていると思えば、告白されずに済むだろ? どっちかが好きな奴ができたら、その時に考えればいいよ」 「なるほど……いいねっ!」  俺の言葉に、何の屈託もなく笑顔で返してくれた。そんな湊に若干の罪悪感もあったけど、結果的に正解だったかもしれない。  高校の時に湊の両親が亡くなった。いつも笑っていて、何があっても前向きな湊が塞ぎ込んでしまった。 「湊……俺も、俺の両親もいるからな」 「うん、ありがとう」  俺以外に頼れる友人もいなくて、暫くはずっと塞ぎがちだった。それでも湊は、大事でとてもいい人に巡り会えた。  小笠原さんは、俺から見てもかなりいい人だった。湊のこと本当に大事にしてくれて、湊が本当に頼りにしてる。 「俺のお守りも終わりか」  寂しいようで嬉しいような、子供の成長を見守る親みたいな気分になった。我ながら変な感覚になってしまった。  大学に入ってからの湊は、以前の明るさを取り戻しつつあった。一番の理由は、小笠原さんの存在がデカかったんだろう。  そして嬉しくて、色んなことを失念していた。小笠原さんに俺たちが、カモフラで付き合っていることを伝えてなかった。 「湊、言っとけよ」 「えー! 透真が、言ってくれているもんだと思ってた」 「普通、湊が言うだろ!」 「えー! 普通、パパが言うものでしょ」 「お前らな……はあ、もういいや」  完全に呆れられていたけど、気にしないことにした。そんな感じで俺たちは、仲良くしていた。  俺と湊が就職して直ぐに、二人が付き合い始めた。四月後半になって、会社の飲み会が行われた。  俺は二人が何処にいるのか分からなくて、探していた時に声をかけられた。相変わらず、イチャイチャしていて周りから引かれていた。 「透真〜」 「おう、湊」  湊の隣にいた男性社員に、完全に目が引かれてしまった。可愛い……なんていうか、可憐という言葉が一番合っているように思えた。  しかし急激に、甘酸っぱいチョコの香りが充満し始める。俺は直ぐに倒れそうになって、四つん這いになった。  湊のヒートに当てられても、そんなに辛くなかった。それなのに、この匂いは相当体に堪えた。  その意味が分からずに、自分の手を噛むことしか出来なかった。これは一体何なんだろうか……。  ――――運命の番。  傍観している連中から、そんな言葉が聞こえてきた。それ以上に、その可憐な男性社員のことが気になっていた。 「ほら、薬」 「う……ん……ありが」  隣にいた男性社員に、抑制剤を飲まされていた。しかもかなり親密そうにしていた。初めて、自分の中に感じたことがない感情が芽生えた。  その時、その感情の意味をまだ知らなかった。そして体が、自分の思うように動かない。 「透真! だいじょ」 「湊は、離れて。ラット起こしてるから、危険だ」 「はあ……はあ」  湊が心配してくれている様子が分かった。それよりも、その可憐な男性社員のことが気になっていた。  隣にいた男性社員と仲良さそうに、何処かへ行ってしまった。その様子を見て何か、複雑な気分になった。 「律、ここは一旦。外に空気を行こう」 「うん……」  律さんって言うのか……湊や小笠原さんに声をかけられても、律さんのことしか目に入らなかった。  律さんが会場を後にしてから、段々と呼吸がしやすくなってきた。しっかりと座り直すと、湊が背中を摩ってくれた。 「大丈夫? 何か飲む?」 「大丈夫……ちょっと、外の空気吸ってくる」 「とう」 「湊くん、ここは一人にさせよう」  湊を小笠原さんが止めてくれて、俺は周りから見られながらもその場を後にした。近くの外階段のところに、行こうとすると話し声が聞こえてきた。 「運命って言っても、関係ないよな」 「もちろんだ。僕はあの時に、もう二度と恋はしないって決めたから」 「ああ、それがいい……俺のためにも」  そこまで聞いて、色々と察することができた。考えようとしたが、直ぐに二人が戻ってきた。  俺は慌てて死角に入って、隠れることに成功した。こんな時にここで、バイトしてた経験が役に立つとは……。  とにかく外階段の中に入って、俺は思考を巡らせた。律さんを見た時、人生で初めての感覚を覚えた。
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