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23話 透真side(2) 一目惚れ
「間違いなく、一目惚れだよな」
こんな感情、初めてでどうすればいいのか分からない。それに二度と恋はしないって、言っていた。
どんな意味か分からないが、少なくとも俺の出る幕はなさそうだ。初めての恋で、こんな簡単に失恋かよ。
そのまま飲み会なんて、参加する気になれない。湊に連絡して、鞄を持ってきてもらった。
「ありがとな……小笠原さんも」
「気にしないで」
「ああ、水臭いぞ。それに、宮澤に関しては関わらないほうがいい」
意味が分からなかったが、軽くだが教えてくれた。律さんの本名は、宮澤律さん。小笠原さんの、高校の同級生ってことは六つ上ってことか。
しかも詳しくは分からないが、高校の時に何かあったらしい。そのせいで、律さんは恋人を作らない。
じゃあ一緒にいた人は、恋人ってわけじゃないのか……それだけで、少し気が晴れていった。
「ねえ、透真は宮澤先輩が好きなの?」
「なっ、何を」
「あっ、やっぱり……分かりやすい! 僕、協力する!」
「ほう……それなら、話は変わる。俺も協力するぞ」
湊って昔から、変に色んなことに敏感なんだよな。それが凄く頼もしい時もあれば、屈託のない瞳で今回のようなことがある。
湊に嘘はつけないからな……仕方ない認めるしかない。俺が静かに頷いて、目を逸らすと二人が何やら色々と相談していた。
というよりもニヤニヤして、悪巧みをしているようにしか見えない。まあでも、俺のためにしてくれているから嬉しいのが本心である。
「泥舟に乗ったつもりで、任せてよ!」
「……本当に、泥舟のような」
「……まあ、検討を祈る」
あまり期待しないようにしよう。湊は勘が鋭いが、やり方が可笑しいんだよな……でもな、俺のために考えてくれているから何も言えない。
ゴールデンウィークに入って、毎年恒例のお見合いがセッティングされた。二十歳になってから、年に二回お見合いをさせられている。
俺は行きたくないんだけど、母さんにどうしてもと泣かれてしまう。完全に嘘泣きだし、隣の父さんは笑っているし。
「はあ……分かったよ」
「よしっ! 決まりね」
別にどうでもいいんだが、毎度男性のΩだけをマッチングさせるんだよな。母さんの趣味なのか、分からないが……。
律さんのことが脳裏に浮かんでくる。ああやっぱ俺、律さんのこと好きみたいだ。まあどうせ、断ればいいや……そう思ってたんだけど。
「……なんで」
「……宮澤先輩」
「あら、お知り合い?」
「あっ、はい。会社の先輩です」
まさかのお見合い相手は、律さんだった。ご両親に挨拶をしている間も、律さんはずっと黙って俯いていた。
二人っきりになるという空気になった。しかし律さんと話せるのは、嬉しいが心ここに在らずだった。それでも俺は意を決して話しかけた。
「あ、あの……宮澤先輩」
「君が悪いわけじゃないけど、結婚なんてする気ないから」
そっか、結婚する気ないか……そうだよな。俺は好きだけど、律さんが嫌なら仕方ない。
運命の番ってだけの関係性だ。それに二人が背中を押してくれるから、お見合いとか運命の番とかで付き合いたくない。
「分かってますよ。俺だって、乗り気じゃないですし」
俺がそう言うと俯いてしまった。泣いているのが、気になって頬を触って顔を覗き込んだ。
「先輩?」
間近で見ると思ってた以上に、可愛くてドキドキしてしまう。
濃いピンク色の着物が、律さんの可愛さにマッチしていて更に可愛さが増していた。
綺麗な白い肌に、顔の大きさに合っていない黒縁メガネ。
綺麗で輝いているその瞳に、涙が溜まっている意味を知りたい。って……今はそれどころじゃないだろ。
「先輩、泣いてますよ。だいじょ」
「乗り気じゃないなら、放っておいて……」
「せんぱ」
先輩に手を振り払われて、泣きながら行ってしまう。俺は少し困惑してしまったが、直ぐに反射的に追いかけた。
でもそこで目に飛び込んできたのは……律さんとあの時の男性社員が、抱き合っている姿だった。
そこでまたもや、俺の中に変な黒い感情が芽生えてくる。この意味が分からなくて、呆然と立ち尽くしてしまう。
そこで律さんと抱き合っていた人が、俺に気がついてニヤリとしていた。その表情を見て、自分の感じている感情が何かなのか分かった。
――――これが、嫉妬か。
「ちっ……」
初めて人を好きになって、嫉妬してるとか……ダサいな、俺……。その日は相手側からの、お断りでお見合いが終了した。
「……はあ」
「透真、話って?」
「俺らでよかったら、聞くぞ」
お見合いの後に、話を聞いて欲しくて二人を呼び出した。そこで今日あったことを、掻い摘んで話した。
「あー、藤島さんかな?」
「幼なじみで、高校の時仲良さそうだったからな」
あの人は藤島凛斗先輩で、経理部に所属している。幼なじみか、俺と湊みたいな感じだろうか。
それじゃ心配だよな……。小笠原さんも詳しくは、教えてくれなかったが……高校の時に何かあったのは、明白だった。
多分俺が思っているよりも、最悪な出来事があったのだろう。俺だって恋人を作る気はなかった。
でもそれは湊のことが心配で、守らなくてはと思っていた。でも今は俺をそっちのけで、イチャイチャしているバカップルだし。
小笠原さんなら、安心して湊を任せられる。今だって同棲してから、何ヶ月も経ったけど幸せそうだ。
「金城くんは、宮澤と付き合いたいのか」
「んー、分かんない……相手次第というか」
「なんか意外……透真って高校に上がるまで、何人も恋人取っ替え引っ替えだったじゃん」
「人聞きの悪言い方するな」
好きだって言われて、断りづらくて付き合ったんだよな。だけど湊を優先すると、いつも別れる羽目になった。
湊はこのこと知らない。激情型の湊は何をしでかすか、分からないからな……それに自分のせいでって、思いそうだから絶対に言わない。
「まあ宮澤は口は悪いが、嫌な奴じゃないからな」
「そうなのか? 口が悪い?」
「……その点は置いておいてだな。ゴホンッ……まあ、当たって砕けろって奴だな」
「砕けろか……」
二人は考え方が似てきたような気がする。まだ付き合って、一ヶ月ぐらいなのに……もう似てきたのか。
少しは頑張ろうかと思ったが、どうすればいいのか分からない。そこで俺は高校時代の、結婚相談所に勤めている友人を思い出した。
次の日。俺は早速相談しに行ったのだが、相談所って思ってたよりもお金がかかる。考えてみたら、一生のことだからそれだけ真剣なのだろう。
「金城くんさ、好きな人いるんだよね」
「ああ、まあな」
「広瀬くんは? 別れたの?」
「いや、お前知ってんだろ」
こいつは唯一俺と湊が、カモフラだってことを知っている。だからこそ、相談相手に最適なのだが……。
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