24話 透真side(3) 小さな背中

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24話 透真side(3) 小さな背中

「冗談はこの辺にして……相談所っていうのは、相手を探すところだから」 「あー、確かに……盲点だ」 「金城くんって頭いいけど、たまにポンコツだよね」 「酷くない?」 「あはは、ごめんって」  そんな感じで談笑していたんだけど……。ここではよくないということで、外で仕事が終わるのを待っていた。 「お待たせ〜」 「おう、じゃあその辺のカフェに」 「奢りでいい感じ?」 「まあいいよ。相談乗ってもらうわけだし」  適当に飲み物を買って、席に座って相談に乗ってもらう。大学の同期と学生結婚していて、恋愛に関しては頼れる。 「単純接触効果っていうのがあるんだけど」  簡単に言うと……会う回数が増えるほど印象に残りやすく、交感度が高まるという心理効果のこと。  なるほどな……でもな、どこで会うって言うんだよ。会社だって、律さんは月数回しか出社しないし。 「後は自己開示効果とか」  自分の気持ちをオープンにすることで、相手も警戒心を解いて親しみを感じやすくする。  自分をさらけ出すか……湊みたく天性の才能で、その場で最善の行動をするってことはできない。 「でもやりすぎは、NGね。相手の興味のないことは、話さないこと。それに年も離れているし、恋人を作る気がないわけだし」 「確かに……」 「最後に一番大事なことは、自分を知ってもらって相手を知ること。金城くんは小手先のテクニックよりも、ポテンシャルの方がいいと思う」  ポテンシャルか……はあ……今まで、誰とも真剣にならなかったことがここで足を引っ張るとはな。  まずは接点を作ることから始めないと……湊からの情報だと、アニメが好きらしい。見ないから分からない。  色々と悩んだ末に、結局何も答えが出なかった。ゴールデンウィーク明けに出社すると、律さんにばったり遭遇した。 「……金城くん」 「宮澤先輩、おはようございます」 「おはよう……ございます……」  ロビーで会ったんだが、私服可愛いな。俺らと違って、WEBデザインは私服だから最高です。  思わずニコニコしてしまうが、ここは会社だし特に何も言わないでおこう。戸惑っているように見えたし。  そのため他の社員にも、同じく挨拶をして中に入って行った。それからというもの、何度も何度も出会った。 「はあ……」  何も進展しないどころが、完全に距離がある。会社の中だし、他の社員には運命の番だってバレてる。  そのこと自体はいいにしても、あからさまな感じになってしまう。俺の方はいいんだが、律さんに迷惑かけたら距離を近づけるどころじゃなくなる。  そんなことをグルグルと考えて、ため息をつきながらロビーに行くと声をかけられた。 「透真! 飲みに行かない?」 「おうっ、湊に小笠原先輩……宮澤先輩」  通りで甘酸っぱいチョコの香りがすると思った。律さんが今日も今日とて、マジで可愛い。  会えたのは嬉しいが、律さん的には嫌なのだろうと感じた。俺らの中に変な空気が流れた。 「……君たち、三人で行って来なよ。僕は邪魔になるから」 「みやざ」 「宮澤先輩! そんなこと言わずに、行きましょうよ!」  俺が何か言わないと思って口を開こうとすると、湊が空気を読んで言ってくれた。こういう時、湊って凄いなって思う。  しかも完全に素の状態だし、俺には絶対にできない。そんな風に落ち込んでいると、律さんに声をかけられた。 「……金城くんも、行くよ」 「あっ、はい……」  律さんは、俺をどう思っているのだろうか……あのお見合いから一度も、会話してない。  考えてみたら、最初から会話なんてしてないのかもしれない。律さんの小さな背中を見つめつつ、トボトボと歩いて行った。  居酒屋に着くと律さんが、電話をしに一旦離れた。俺は気になってしまい、二人に行って外で待つことにした。 「はあ……寒いな」  五月とはいえ、まだまだ肌寒い。そういえば、律さん薄着だったよな……俺は上着着てても、寒いから寒いだろう。  そう思ってチラッと見てみると、電話が終わったようだった。壁に寄りかかって、ため息をついていた。  両腕を擦っているってことは、寒いのだろう。そう思って、スーツの上着を肩にかけた。 「宮澤先輩……寒いので、電話が終わったのなら入りましょう」 「……分かってるよ」 「風邪引くといけませんよ」 「煩いな! 放っておいて!」 「すみません……」  少し馴れ馴れしかったか……難しいな、距離を縮めるって……。そう思っていると、上着を突き返された。 「返す……後、あの二人には帰ったって伝えておいて」 「あっ! 宮澤せんぱ……」  顔を見ずにその場を後にされて、俺の手には突き返された上着があった。そして自然と、ため息が溢れた。 「はあ……二人のとこに行くか」  俺は楽しそうに、飲んでいる二人の所に行ってどかっと座った。その様子を見て心配そうにしていたが、俺はかなり強めのウィスキーを頼んだ。 「大丈夫? そんなに、強くないよね」 「今日は飲みたい……」 「だけど……」 「湊くん、たまには飲みたい気分の時もあるんだよ」  小笠原さんの言う通り、今日は飲んで忘れたい。俺のこと嫌いにしても、あそこまで拒絶されると思ってなかった。  話ぐらいは聞いてくれるって、漠然と思っていた。連絡先も知らないし、何も知らない。  結局その日は、自分でも驚くくらいに酒に溺れてしまった。気がつくと、部屋のベッドで寝ていた。 「頭痛い……」  壁掛け時計を見ると、十二時を指していた。今日休みでよかった……じゃないと確実に遅刻だ。  スマホを見ると、湊からメッセージが来ていた。昨日の飲み代は、僕からの奢りだから気にせずに休んでね! 「この頭痛い時に、このキラキラ文章は目に痛い」  とは言いつつも、心配してくれているのだろう。そう思ったから、ありがとうと返しておいた。  すると直ぐに、変な猫のOKというスタンプが送られてくる。いつも思うが、センスが独特だよな。 「透真、ご飯食べて。シャワーでも浴びなさい」 「はーい」  母さんに言われて、二階の部屋から一階のリビングへと向かう。椅子に座ると、いい匂いのする味噌汁が置かれた。  一口飲むとしじみの濃厚な味わいが、口一杯に広がった。おかずとご飯も食べて満足だった。  母さんに急かされて、俺は風呂に入った。体を洗って、湯船に浸かって色々と考えてしまう。 「はあ……どうすっかな」  律さんは完全に俺に対して、心を閉ざしている。どうすればいいのか、分からんな……。  とにかく、気晴らしに出かけるとするか……。お風呂から上がって、着替えて外に出ることにした。 「どこに行こう……あれって」  何やら考えながら、歩いている律さんを発見した。どうしよう、話しかけるべきか……。そう思って見ていると、赤信号なのにフラフラと歩いていた。
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