25話 透真side(4) 大人な感じ

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25話 透真side(4) 大人な感じ

 考えるよりも、気がつくと体が動いていた。後ろから抱きしめる形で、止めていて間一髪だった。  甘酸っぱいチョコの香りが漂ってきて、それだけで嬉しくなってしまう。そんなことよりも、轢かれなくてよかった。 「か、かなし……ろくん」 「宮澤先輩」  話しかけようとすると、何故か前に行きそうになった。車がまだ走っているため、俺はより一層強く抱きしめる。  その後会話すると、顔が真っ赤だった。熱中症だと思ったから、俺は律さんの腕を掴んで行きつけのカフェへと連れて行った。 「あっ、えっと……アイスココア」 「具合が悪い時は、ココアは止めたがいいですよ。紅茶は飲めますか?」  俺はオレンジジュースで、律さんはルイボスティーを頼んだ。財布を取り出そうとしたから、俺は優しく微笑みながら言った。 「ここは俺が出します」 「で、でも……ここは年上の僕が」 「給料入ったばかりなんで、カッコつけさせてください」  少しぐらいは、いい所見せないと……まあ中々に難しいもんなんだよな。でも具合が悪い人に、支払わせるわけにはいかない。  飲み物が出来たから、それを持ってテーブルに移動する。すると律さんに質問されたから、俺は素直に答える。 「ありがと……あのさ、僕のどこ見て具合悪いと思ったの?」 「えっ? 顔が赤かったので、熱中症だと思いまして」  熱中症じゃなかったのか? どうなのかと思って、顔を覗き込むと更に顔を真っ赤にさせていた。  体中の体温が急上昇していくのが、分かって俺は変な気分になってしまう。声をかけて急いで立ち上がって、トイレへと向かう。  個室に入って自分の下半身を見ると、ありえないほどに主張していた。ヤバいな……あの甘酸っぱい香りと、律さんの顔を見ただけでこれって……。  ズボンと下着を下ろして、自分のを触る。こんなに脈打ってるの、見たの久しぶりな気がする。  優しく丁寧にやりつつ、激しくしたりする。その間も律さんのことしか、考えることができない。 「ふっ……んっ……り……つさ」  誰かが来たようだけど、直ぐに行ってしまった。こんなとこでよくないのに、してしまう自分がいる。  それだけ律さんのことが、好きなのだと確信する。終わった後に手を洗って、トイレを後にする。  律さんの元に行くと、机に突っ伏していたから心配になる。若干の罪悪感もありつつ、声をかけると元気そうだった。 「熱はもう、大丈夫ですか」 「あっ……まあ、大丈夫」  元気になったようでよかった。俺は安堵して、優しく微笑んだ。このまま別れるのは、まだ外も暑いし……。  何より俺が名残惜しかったから、買い物についていくと提案した。最初は渋っていたが、頼ってくれて嬉しかった。  律さんって可愛いよな……隣を歩く律さんを、横目でチラ見する。湊も可愛いが、湊に対してこんな感情湧いたことない。  やっぱ、この感情が好きってことなんだろうな。それにしても、この甘酸っぱいチョコの香りいいよな。 「あっ……いいよ、ここまでで」  あっ……まただ。いつも何処か、見えない壁を作られてしまう。せっかく。仲良くなれそうだと思ったのに……。  恋愛ってこんなに難しいなんて、世の中の人は凄いなと思ってしまう。あのバカップルも、最初は色々あったもんな。  多分一番の原因は、俺がカモフラで付き合おうと言ったからだと思うが……それは一旦置いておいて、俺は素直にこの人の役に立ちたい。 「そんなこと言わないで、頼ってください。行きますよ」 「あっ……うん」  俺の言葉に静かに頷いてくれた。可愛いな……重たい荷物が気にならないぐらいに、俺は舞い上がっていた。  豪華なマンションで、凄いなと感心してしまう。一人暮らしか、大人な感じがするな。 「入れば、荷物入れて……お茶ぐらい出すよ」 「入っていいんですか」 「嫌ならいい」 「入ります! 入らせてください!」  まさか入れさせてもらえるなんて、思わなかったから嬉しかった。距離があるかななんて、思っていたがそうでもないのかもしれない。  律さんに言われた通りに、荷物をしまってリビングの方へと向かう。入るとむせかえるような甘ったるい匂いが充満していた。  自分の手を噛むことでしか、この匂いを我慢することができない。ヒートに当てられるなんて、湊で慣れているのに。 「宮澤先輩、他に何か手伝うこ……この匂い」 「こな……いで……」 「んっ……帰ります……はあ……」  運命の番だからなのか、それとも律さんだからなのか……どうしても、我慢することができない。  自分の手を噛んで我慢していると、律さんがソファの方に向かっていた。俺はリビングを後にしようとしたが……。  律さんが転びそうになったのが、見えたから俺は急いで助けに行った。後ろから抱きして、腰を支えてソファに押し倒す形になった。  白い首筋が見えて、ダメだと分かっていても噛みつきたくなってくる。  本能的なものだろうけど、我慢しないといけない。 「はあ……だいじょ……ぶですか」 「はあ……んっ」  律さんが無事なようで、安心して俺は部屋を後にする。廊下に出ると、少し体が楽になってきた。  そこで藤島先輩と鉢合わせした。いきなり睨んできて、あからさまに喧嘩を売ってきた。 「なんで、ここにいる。律に近づくな」 「かん……けいないですよね。藤島先輩には」 「はあ? 関係ない?」  俺がにこやかに、喧嘩を買うと更に睨んできた。この人、やっぱ律さんのことが好きなのだろう。  他の人ならまだ、祝福できるかもだけど……この人だけには、絶対に渡したくない。そう思って、俺は更ににこやかに微笑んで告げる。 「そうですよね。お二人って、付き合ってるわけじゃないですよね」 「それはてめーも、一緒だろうが」 「少なくとも俺は、律さんの気持ちを蔑ろにはしないです」 「てめー」  殴られそうになったが、同じフロアの住人に見られていた。そのことに気がついたのが、藤島は拳を引っ込めた。  そのまま舌打ちをして、律さんの部屋に入って行った。この人にだけは負けたくない。だけど、βとは違ってαの俺は入れない。  一番大変な時に何もできないのは、とても辛くて情けなく感じてしまう。それでも、絶対に藤島だけには負けたくない。  一週間後。湊からの連絡を受けて、律さんを迎えに行った。久しぶりに会えたのが、嬉しかった。  でも律さんは何かを、悩んでいるようだった。少しは俺を頼ってほしい……年下じゃ頼りないかもだけど……。 「先輩は笑っている時が、一番可愛いですよ」 「な、何言って……」 「ふう……無防備過ぎますね」  可愛すぎて、どうすればいいのか分からなくなってしまう。少しでも、頼ってくれるならそれだけで嬉しい。 「もう送ってくれなくて、いいよ」 「せんぱ」 「どこまで聞いたか知らないけど……僕だって、男だから自分で何とかするよ」  どうしたら距離って縮むのだろうか……好きだってことも、上手く伝えることができない。
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