26話 透真side(5) 後悔の念

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26話 透真side(5) 後悔の念

 律さんの気持ちが分からない以上、今伝えると離れて行きそうで……俺はそれが一番、辛いから。 「……嫌です。俺が、したくてしてるんで」 「……はあ、勝手にして」  素直に言わないけど、顔が真っ赤な律さんがとても可愛い。少しは距離が、縮んでいたらいいな。  それから湊の計らいで、律さんの誕生日が六月十五日だと知った。よく二人で飲むようになって、思わずキスまでしてしまった。  付き合ってもないのに、キスなんてよくない。自分でも分かってるし、最低だとも分かっている。 「律さん……」  それでも律さんは嫌がってなくて、ついついしてしまう。気がつくと、それが当たり前になっていた。  明日は律さんの誕生日で、俺はデパートに買い物に来ていた。色んなものがあって、どれにすればいいのか分からない。 「さて、何がいいのか」  食べ物はアレルギーだったり、好みだったりがある。会社勤めとはいえ、基本在宅ワークだから……。  何が必要なのか、さっぱり分からない。適当に歩き回っていると、紅茶の詰め合わせセットを見つけた。  これならいいかも、まだ付き合っていない相手に送るのに……あまり高価なものは、かえって気を遣わせそうだし。 「これなら、在宅だからこそいいかも」  この前行った時、コーヒーが大量にストックあったみたいだし。これなら、喜んでくれると思う。  そして昨日徹夜で書いた手紙を、入れれば完璧だろう。誕生日当日になって、居酒屋で飲むことになった。  律さんの様子が可笑しいことに、気がついて俺は心配になってきた。俺にできることなら、頼ってほしい。 「律さん? 具合でも……」 「……んで」 「……あっ、その……今日、誕生日ですよね。プレゼント持ってきたので、飲んで下さい」  律さんが、元気がないように見えた。紅茶が入っている小さな紙袋を、鞄から取り出した。  渡したけど、持ったままで開けることはしなかった。何も言わないで、黙って俯いているから優しく頭を撫でた。  でも何やら、怒っている様子だった。俺何かしたのかな……やっぱ、付き合ってないのにキスとかよくなかったのか……。 「き……」 「えっ、今なんて……」 「好きだ……」  えっ……好きって、好きってこと? あまりにもテンパリすぎて、自分でも驚くくらいに変なことを言ってしまった。 「ごめんなさい」 「……何それ」 「律さ」 「その気がないなら、最初から思わせぶりな態度取らないでよ!」  その言葉を聞いて、俺は酷く後悔してしまう。何処でどう間違えてしまったのか……。  律さんが怒って行ってしまっても、どうすればいいのか分からない。それから数日後。居酒屋で湊と小笠原さんに相談していた。  しかし流石の俺でも、少し怒ってしまうぐらいに聞いてくれない。俺も悪いとこしかないから、心底落ち込んでいる。 「相談聞けよ!」 「えー、透真なら大丈夫だよ。ね? 蒼介」 「あー、大丈夫じゃね。まあ、頑張れ」  結局何の参考にもならんし、悲しさと後悔の念しか残らない。しかも会社ですれ違っても、完全に避けられていた。  もう、無理なのかもしれない。俺の手紙読んでも、連絡してくれないってことは……。  はあ……何で、咄嗟のこととはいえ断るような発言をしてしまったのだろう。これじゃ、ただ単に最低なやつじゃん。  それから数十日が経ってから、俺は暗い気持ちで散歩していた。そこで街中で、誰かに因縁をつけられている律さんを見つけた。 「律さん……」  悩んでいる暇はないな……腰と肩を掴んで、後ろから抱きしめた。片手で両目を隠して、周りの視線を見せないようにした。 「かな……しろくん……」 「お前ら、俺の恋人泣かすんじゃねーよ」 「は? 何だよ! 急にって……透真か」 「昴だよな」  気が付かなかったが、律さんに何やら言っていたのは従兄の昴だった。昴が何やら、意味の分からないことを言っていた。 「こいつは……平気で浮気して自分が悪いことを、認めない卑怯な奴なんだよ」  そんなことは今の俺には、全く関係ない。律さんが昔の恋人に、浮気されて恋人を作ることを拒否してると聞いている。  黙って聞いてれば、証拠写真とかって何言ってんだよ。昴とは、昔から仲がいい兄弟みたいに育った。  それでも俺は昴よりも、律さんの方を信じる。それにお前が言っているのって、本物なのかも怪しいだろ。 「それは本物なのか、律さんに聞いたのか」 「それは……」 「それなのに、一方的に決めつけたんだろ」  まだ何か言いたそうにしていたから、俺が凄むと俯いて目を逸らした。話にならんな……。  律さんをその場から連れて行こうとすると、まだ何か言いたそうにしていた。何かを言う前に、それを睨んで止める。 「あっ……それは、みやざ」 「俺の恋人をこれ以上、侮辱すんじゃない」  公園に連れてきて、何処か元気のない律さんに申し訳なさそうに言われた。律さんが悪いんじゃない。  全て守りきれない不甲斐ない俺のせいだ。しかも昴が元恋人とか、ありえないだろう。あんなこと、するようなやつだとは思わなかった。 「嘘つかせてごめん」  嘘か……手紙読んでも、俺の気持ち伝わらなかったってことだもんな。でも、そんな簡単には諦めたくない。 「……その、明日って予定ありますか」 「えっ……」 「話したいことがあります」  少し強引だったかもしれないが、それでもデートに行く口実を見つけた。何処に行くかは、後で考えよう。  それよりも昴に対して、イライラしてしまっている。今は、律さんと一緒にいれて嬉しい。  律さんを送ってからも、俺のイライラは加速していた。そんな時に昴から電話があって、無視しようかと思ったが出た。 「……なんだよ」 「あ、あのさ……ちょっと、これから話せるか」 「ちっ……分かった」  昴に言われた通りに、駅前のカフェへと向かう。正直自分でも、驚くくらいにイライラしている。  カフェに着くと既に昴が、気まずそうに座っていた。俺は店員さんに声をかけて、コーヒーを注文。  商品を受け取って昴の前に、ドカッと座った。俺に気がついたようで、話しかけてこようとした。  しかし俺の表情を見て直ぐに、目を逸らしてしまう。完全に俺にビビっているようで、周りからも変な目線を向けられている。 「で? 何の話? 早くしてくんない」 「あのさ……宮澤とは、いつから……つ、きあってるんだ」 「関係ないだろ」 「……そうだよな」  俺がそう言うと昴は、またもや俯いてしまった。黙って動かないで、今にも泣きそうな感じを醸し出していた。  ふざけんなよ……何を被害者面してんだよ。律さんはお前のせいで、一生消えない傷を負ってしまったんだぞ。  それなのに、俺が虐めてるみたいじゃないかよ。イライラしてしまったが、ここは情報収集が必要。  怒りを一旦抑えて、表面上だけ冷静を保つことにした。一回深呼吸をして、手短に聞いてみる。
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