27話 透真side(6) 好きな人が嫌がることはしない

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27話 透真side(6) 好きな人が嫌がることはしない

「で? さっき言ってた証拠写真って、誰から見せられたんだ」 「藤島凛斗って知ってるか……宮澤の幼なじみなんだけど」 「知ってる……会社の先輩」 「そうなのか……その藤島に言われてたんだよ。律には浮気癖があるから、気をつけたほうがいいって」  藤島かよ……あいつ、何してんだよ。律さん苦しめて、何がしたいんだよ。好きなら何で、その人が嫌がることをする。  俺と同じく好きなのだと思っていたが、違うな……俺だったら絶対に、好きな人が嫌がることはしない。  一番は俺が幸せにすることが、大事だけど……それ以上に、律さんが幸せになることが最重要だろ。 「で? その証拠写真って」 「その藤島が偶然撮ったっていうのを、見せてくれた」 「それを見て何も律さんに聞かずに、勝手に悪者にしたのか」 「俺だって、信じたかったよ……だけど、宮澤は一週間も俺からの連絡を無視した……それって、そういうことだろ」  こいつ本当の馬鹿なのかよ……時を同じくして、藤島から律さんも昴の不貞を聞かされていた。  そのことがショックで、律さんが寝込んだらしい。例えその写真を見せられて、連絡つかなくても恋人なら信じるべきだろ。 「一つ聞きたいんだが、その写真は小笠原さんも見たのか」 「お前……蒼介とも知り合いなのか」 「いいから、質問に答えろ」 「見たはずだ……他にも数人いて、その中にいたから」  その証拠とやらを見ても、小笠原さんは律さんを信じている。それなのに、肝心のお前が信じなくてどうするんだよ。  湊は本当に、他人を見る目があるんだなと思った。それはそれとして、そんな簡単に他の言う奴のこと信じるとかありえないだろ。  多少口は悪いかもだけど、あんなに優しくて繊細な人を信じないとか……。そう思っていると、こいつはふざけたことを言いやがる。 「俺は今でも、宮澤のことがす」 「ふざけんな」  俺は思わず飲んでいたコーヒーを、かけそうになったがやめた。気がつくと、近くに置いてあった水を昴にかけていた。  周りが完全にシーンとなっていて、変な空気に包まれた。俺は立ち上がって、自分でも引くくらいに冷淡な瞳を向けていた。 「もう二度と、俺たちの前に現れるな」  低くてドスの効いた声を出して、俺はもう一度睨む。昴は今にも、泣き出しそうな顔をしていた。  自業自得だ……。俺はそのまま店員さんに、頭を下げて店を後にした。はあ……流石にイライラしてたとはいえ。  公共の場であんな騒ぎ起こしちゃって、大人としてよくなかったよな。後悔はしていないが……。 「とにかく、明日は律さんにちゃんと言おう」  次の日。夢のような遊園地デートを満喫していた。ジェットコースターで待っている時に、律さんは暑いのかTシャツの裾をパタパタしていた。  お腹が見えて、綺麗な白い肌が見えた。流石に刺激が強いから、止めてほしい。そう思って、止めると不思議そうにしていた。  無自覚って怖い……他のαからも、エロい目で見られている自覚を持ってほしい。飲み物を、買ってきてくれるって言うから頼んだ。  そこで律さんをエロい目で見てた奴に、ニコリと冷たい目で会釈する。すると、バツが悪そうに、目を逸らされた。 「はあ……」  こんな奴らに時間、割いている暇ないんだよな……。どうしようか……律さん手紙に関して、何も言ってくれない。  やっぱ、俺の独りよがりなのか……。そう思って進んでいく列を、何も考えずに歩いて行った。  何かに触られた気がして見ると、律さんがいて転びそうになっていた。手を引くと、俺の胸にダイブする形になった。  危なかった……もう少しで、転んでしまうところだった。微笑みかけると、距離を取ってペットボトルを渡してきた。 「冷たいですね」 「つっ……ほら、進んだから。行くよ」 「はーい」  律さんの後ろをついて行くと、顔を真っ赤にしていた。もう可愛い……まあ、ジェットコースターが想像の倍以上辛くて完全にダウンしていた。  それでも、膝枕してもらって回復した。それからもどこか、様子の可笑しい律さんが気になっていた。  吊り橋効果っていうのも聞いて、ここはお化け屋敷に行くことに決めた。でも一番大事なのは、律さんの気持ち。 「律さんは、お化け屋敷大丈夫な人ですか?」 「……ヒ、ヒトナミには」  完全な棒読みで言っていて、苦手なのは明白だった。苦手なら止めておこうと思ったが、律さんの痩せ我慢が可愛かった。  もし無理そうなら、途中で出ることも出来るから。頃合いを見計らって、無理なら出ようと思った。  それでも律さんが、怯えながら俺にしがみついてきた。身を完全に任せてくれていて、信用してくれているようで嬉しかった。  ほぼほぼ目を閉じて、足がガクガクしていた。上手く歩くことができないようで、マジで可愛くて愛おしい。 「しっかり、掴まってくださいね」 「えっ? ちょっ」  明らかに無理そうだったから、俺はお姫様抱っこをして外に連れ出した。軽くて少し心配になるぐらいだった。  外のベンチに座らせると、何故かバツが悪そうにしていた。何で律さんが、悪いと思うのか分からない。 「ここに座ってください」 「……ごめん」 「なんで、謝るんですか」 「だって、僕のせいで最後まで」  律さんが悪いことは、何一つもない。今日だって、完全に俺のわがままに付き合ってくれているんだし。  僕のせいでとか言ったら、むぎゅむぎゅすることにしよう。一番の理由は、律さんの頬が柔らかいから触りたいだけ何だけど。  なんでそんなに、優しいのかと聞かれた。そんなの決まってる……好きだから、それ以外の理由なんてない。  メリーゴーランドに乗りたいと、言われて可愛いなと思ってしまった。律さんが綺麗すぎて、不安とかが消えてしまった。 「最後に、観覧車に行きましょう。伝えたいことがあるんです」  帰ろうとしたから、俺は観覧車へと連れて行った。手紙のこととか、告白のこととか聞きたいことがある。 「律さん、言ってましたよね。思わせぶりな態度取らないでって」 「……ん」 「それに関して、本当に反省してます」 「いいよ、別にもう……今日で終わりなんだし」 「えっ……」  終わり? って、どういう意味? 何だよ……それ。ようやく距離が縮んできたと思ったのに、結局何も変わってない。  急に悲しくなってしまって、両肩を掴むとやっとこっちを見てくれた。泣きそうな顔になっていて、胸が締め付けられた。 「律さん、今日で終わりってどういう意味ですか」 「……そのままの意味だよ」 「……なんで」 「僕はもう、恋愛で傷つきたくないから」  確かに俺が知らないことが、まだあるのかもしれない。それでも、俺はやっぱ律さんと一緒にいたい。
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