40話 透真side(10) 沸騰

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40話 透真side(10) 沸騰

「聞いていいですか……なんで、その……断ったんですか」 「えっ? なんでって、後少しで引っ越すのに必要あるのかな? って思ったから」 「それだけですか」 「うん、他にあるの?」  なんだ、そんなことだったのか。自分の心の狭さに、恥ずかしくなった。それと同時に、嬉しくなってしまった。 「あのさ、思ったんだけど。一緒に住まない?」 「へ……あの、今なんて」 「一緒に住まないかな? って、嫌ならいいけど」 「俺で良かったら! 住みたいです! 住ませてくださいっ!」  律さんから一緒に住もうなんて、嬉しすぎて前のめりになってなってしまった。若干引かれているような感じがした。  それでも律さんと一緒に暮らせる方が、嬉しくて舞い上がってしまう。食べ終わって二人で、キッチンで皿洗いをしていた。 「あのさ、ずっと思ってたんだけど……ごじゃなくて、いいよ」 「ご? って、なんですか」 「ご、じゃなくて……敬語じゃなくて、タメ口でいいよ。話しにくいでしょ」  律さんからそんなこと、言ってもらえるなんて夢じゃないだろうか。話しにくいが、律さんとなら全然苦にならない。  律さんと少しでも、距離が縮まるのならそれ以上に嬉しいことはない。あまりはしゃぐと、子供っぽいかと思って落ち着いて聞いてみる。 「いいんです……ではなく、いいの?」 「うん……いいよ……強制はしないけ」 「タメ口でいくよ! 律さんと、もっと仲良くなりたいから!」  本当にいいのか! 嬉しすぎて、つい前のめりになってしまう。いかんいかん、子供っぽいって思われてしまう。 「少しずつでいいよ……」 「えー、なんで?」 「なんででもっ!」  律さんに目を見られると、直視できないんだよな。可愛すぎて、真っ直ぐに見ることが、出来ない。  耳まで真っ赤になっている律さんを見ながら、二人して無言で皿洗いをした。スイカがいい感じに、冷えたから丁寧に切った。  ダイニングテーブルに持って行って、俺たちは向かい合って食べていた。いい物件が見つかったのか、気になったから聞いてみることにした。 「ところで、いい物件見つけました?」 「敬語やめて」 「あっ……気を取り直して、ゴホンッ……いい物件見つけたあ」 「あっ、噛んだ……ブフッ」  あーもう、恥ずかしい。思いっきり噛んでしまって、笑われてしまった。気を取り直したが、更に笑われてしまった。  律さんが、嬉しそうにしているのはいいが……それでも、少しいじけてしまった。スイカが美味いのが、救いになっているかも。 「まだだよ。それに一緒に住むなら、二人で見に行かないと」 「律さんって、積極的」 「はあ? 見に行かないの」 「行くよ! 絶対に! 今直ぐ行こう!」  律さんの気持ちが変わらないうちに、住むことを決定しとかないとな。そう思って俺は、高校時代の友人で不動産に勤めている奴に聞いてみる。 「今から行ってもいいか」 「開口一番それかよ。あれか? 広瀬とか?」  そういえば、湊と付き合っているって思ってるんだよな。否定も肯定もめんどくさい。でも、律さんに余計な情報入れたくない。 「違う。余計な詮索はいらん」 「なんでそんな上からなんだよ」 「いいから、結論」 「はあ……いいよ。で? 誰と住むんだ」 「恋人だよ。いいか、余計なこと言うなよ」 「へーい」  電話を切って律さんに笑顔を向けて、今直ぐに行こうと告げた。しかし律さんは外が暑いから、行きたいと行ってきた。 「今行くのも、明日行くのも暑いのは同じ」  俺がそう言うと、着替えてくると言って寝室に向かった。律さんが着替えている間に、俺は片付けを済ました。  タメ口いいな……律さんと距離が縮まったような気がする。着替えてきた律さんは、可愛さが増していて最高だった。 「いいってことよ。噂の彼氏さん?」 「そうだ。一緒に住もうと思って」  こいつ……余計なこと言うなって、言ったのに余計なことを。まあでも、誰かに律さんを恋人として紹介するのはいい感じだ。  律さんの隣に堂々と立てるように、色々と努力が必要だが。律さんは悪い方向に、考えてしまう傾向にある。  内覧に行くと、キッチンが広くて部屋も広くていい感じだ。俺的には、律さんが快適に仕事や同人誌を描ければいいからな。  会社から少し遠くて、電車を使わないといけない距離になってしまった。律さんが俺を、心配してくれているようだった。 「会社から、遠いよ。僕はいいけど、透真くんは毎日大変でしょ」 「俺はいいよ。律さんが快適なら、俺は少しぐらい遠くても大丈夫」  律さんが快適で、幸せなら俺は気にならない。律さんにそう告げると、顔を真っ赤にしていて可愛かった。  俺たちが見つめ合っていると、空気の読めない奴が遮ってくる。それでも今は、内覧中だからな。 「あのー、お二人さん。今内覧中なの、お忘れですか」 「あっ……」 「忘れてた」 「この二人……ある意味、お似合いなのかもな」  律さんとお似合いって言われて、嬉しくなってしまった。体が沸騰するような、感覚になってしまった。  律さんを見ると耳まで真っ赤になって、恥ずかしがっていた。俺たちを見て友人が、ため息をついていた。  審査があるらしく、残念ながら俺では通らない。社会人一年目だから、仕方ないとはいえ締まらない。  俺のプライドよりも、律さんが優先だからな。律さんが快適なら、俺はそれだけで満足だ。 「決まってよかったね」 「だな〜」 「でも本当に、よかったの? 遠いのに」 「言っただろ。俺は律さんが、快適ならいいんだよ」 「もうっ……馬鹿」  合鍵と暗証番号を教えてもらって、また距離が縮んだような感じがした。それと同時に、近いうちに律さんのご両親に挨拶しないとな。  男とはいえ、大事な息子さんと一緒に住むんだからな。それに将来がどうなるか、未知数だがしっかりとしないとな。 「律さん、末長くよろしく」 「ん……よろしく」  少し恥ずかしがっていたが、それでも律さんとこれから一緒にいられる未来が待ち遠しい。  同人誌が出来たようで、俺は律さんが見せたくないのは何となく気がついていた。  それでも気になって見てみると、謂わゆる十八禁のシーンがガッツリ描かれていた。  なるほど、律さんはこんな風にやってもらいたいのか。下手くそだっただろうから、色々と勉強になった。  次やるときは、この話を参考にしてみよう。なるほど……ふむふむ、勉強になるな。  同人誌を売る日になって、俺は手伝いに行くことになった。そこで律さんが、可愛くて他の誰かに取られてしまうんじゃないかと不安になった。 「律さん、これ被って」 「え? キャップ?」 「うん、被って」  自分でも醜い独占欲だとは分かっている。それでも、心配なものは心配である。俺は笑って、被っていた黄色のキャップを律さんに被らせた。  販売するところに行くと、藤島もいて変な対抗意識が芽生えてくる。なんか俺と話す時と違って、生き生きしてないか。  やっぱ、こいつのこと嫌いだわ。俺が律さんの恋人なのに、俺の前でイチャイチャすんなよな。  しかも時々こっちを見て、ニヤニヤしている。無性に腹が立ってしまうから、俺は藤島を睨みつつ律さんに声をかけた。 「律さん、これはどうすればいいの」 「あー、それね。ここにこうやって」  もう一人色黒の女性が来て、褐色先生って呼ばれていた。そこで俺は、周りや藤島に聞こえるような大きな声で恋人を主張する。  律さんの肩に手を置いていると、藤島がこっちを睨んできた。だから俺も睨み返していた。  そこで律さんの名前の、桃色先生っていうのが気になって聞いてみる。律さんは何故か、目を逸らして教えてくれた。 「律さんの名前の、桃色ってどういう意味?」 「あー……ほら、僕ピンクが好きだから」  あーなるほど、そう思っていると時間になったらしく藤島に声をかけられた。マジでこいつ、睨んできて腹が立つ。
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