43話 誕生日

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43話 誕生日

 僕のこと女だと思っているとか……身長も低いし、女顔なのも分かってるけど……無視しているのに、しつこく話しかけてくるとかウザい。 「何お前ら、俺の恋人になんか用事ですか?」 「透真くん、いいからデザート食べよう」 「律さんがいいなら、いいけど」  僕が思ったままを口にすると、男二人は苦笑いして何処かへ行ってしまった。どことなく機嫌の悪い彼を見て、僕は疑問に思ってしまった。 「透真くん、どうしたの?」 「……俺が買いに行ったから、絡まれたのか」 「あー、さっきの奴ら? どちらにせよ……ああいうのに時間、使うほど暇じゃない」 「そっか……でも何かされたら、言ってよ」  何かって、何かされるの? まあΩってだけで、よくないことをされそうになるから。  彼と一緒にいたから忘れていたけど……。Ωってだけでいつだって、そういう危機に直面する可能性があるんだよね。 「律さん、アイス溶ける前に食べよ」 「うん……可愛いこれ」  カピバラの形をしたクッキーと、豹の形をしたクッキーが乗ったアイスだった。それぞれチョコソースと、ラズベリーソースがかかっていた。  僕は思わず一眼レフで、写真を撮ってしまった。そんな僕を優しい微笑みで、見つめてくる彼が美しい。  気がつくと、彼の表情も撮ってしまって驚かれてしまった。流石に良くなかったかなと、思っておそるおそる聞いてみる。 「ごめん、消すよ」 「なんで? いいよ。俺なら、律さん限定でフリー素材だから」 「いいから、食べよ」  僕はチョコの方を食べようとしたけど、彼がラズベリーが苦手だったことを思い出した。  そのため直ぐに、ラズベリーの方を手に取った。ラズベリーの方を食べると、甘酸っぱい味が広がってきた。  だいぶ溶けてきているのに、彼は僕を見て食べようとしない。僕は急激に恥ずかしくなって、そっけなく伝える。 「早く食べなよ。溶けるよ」 「そうだな」  僕が言うと彼は微笑んで、食べ始めてなんか綺麗だった。暑いのもあってか、僕は急いでアイスを食べ終わった。  彼も食べ終わったようで、僕たちは立ち上がった。園内を歩き始めた時に、そこで僕は気になったことを聞いてみた。 「そういえば、アイス代っていくら?」 「いいよ。払わせて」 「でも……今日は透真くんの、誕生日だし」 「じゃあ、夜は俺のお願いを聞いて」  それぐらいでいいのならと思って、静かに頷いた。どんなお願いなのか分からないけど、無理難題は言ってこないだろう。  そう思って手を引かれて、カピバラのふれあいコーナーに向かった。思っていたよりも、混んでいたけど直ぐに触れ合えた。 「なんか、怖い」 「大丈夫だと思う」 「なんの根拠もない」  まあでも二人で、飼育員さんに教えてもらいながら触った。猫をゴロゴロしているようで、気持ちよかった。  お腹やお尻もいい感じだったけど、肘のお肉が気持ちよかった。意外と毛がゴワゴワしていたけど、可愛くて時間いっぱい触れ合った。 「あー、気持ちよかった」 「律さん、楽しそうだったな」 「カピバラって初めて触ったけど、楽しかった」  僕たちは手を繋いで、ミニ動物園を後にした。次は足湯に行くことになって、僕たちはぶらぶらと向かった。  結構外国人さんもいて、写真を撮って素材にしたいという欲が出てきた。流石にそんなこと出来ずに、その欲求は抑え込んだ。 「律さんは、端っこで」 「あ、うん」  彼に促されて、端っこの方に座った。足湯って初めて入ったけど、気持ちよくて体の力が抜けていった。  彼の肩に寄りかかると、引き寄せてきた。思わず顔を見ると、ニコニコしていて目を逸らしてしまう。 「律さん、疲れてるから」 「僕よりも、通勤している透真くんの方が疲れているんじゃない?」 「俺は律さんの顔が見れれば、疲れないから」 「そういうことを、真顔で言わないで」  もうこの人は、顔色一つ変えないで言うんだから。周りに人もたくさんいるのに、恥ずかしいでしょ。  そんな会話をしていると、彼が外国人さんに声をかけられていた。僕英語はいつも赤点ギリギリだったし、何言ってるか分からない。  それなのに、彼は多分流暢な英語で何やら談笑していた。少し寂しい気持ちと、自分の不甲斐なさを感じていた。  思わず彼の浴衣の袖を掴むと、それに気がついた様子だった。彼が僕を優しく見つめてきた。 「律さん、行きますか」 「あっ、うん」  彼に促されて足を出すと、綺麗に拭いてくれた。少しくすぐったかったけど、嬉しそうにしていた。  相当なお世話好きなのかな? 湊くんっていう甘えん坊が、幼なじみだと自然となってしまうのかも。  彼に手を引かれて、待ち並みを散策していた。彼と一緒にいるのは、楽しいし嬉しいんだけど。  たまに思うんだよね……。年上なのに、リードされてばかりでいいのかな? って……別にプライドとかが、あるわけじゃないけど。 「律さん? どうした?」 「あっ、なんでもな」 「こっちに」  よく分かんないけど、人並みを掻き分けて歩き出した。急いでいるみたいだったけど、僕のスピードに合わせてくれていた。  そういう余裕が、僕との差を感じさせるんだよね。路地裏に連れて行かれて、壁ドンをされた。  壁ドンってされている時、こんな感じなのか。こんな時にも、この画角撮りたいって思ってしまう。  急に抱きしめられて、僕は何がなんだか分からずに困惑してしまう。それでもなんとなく、背伸びをして抱きしめた。 「透真くん?」 「何か考え事してただろ。何かあったら、教えて」 「あっ、えっと……英語出来るんだなあって」 「俺と湊は、大学では外国語が必修になってたから」  知らなかった……湊くんも話せるんだ。そうだよね……うちの会社、外国相手に商売してるし。  そこの営業してるってことは、必要だもんね。僕この人のこと、何も知らないんだなって思ってしまった。 「あのさ、暑い」 「あっ、ごめん」  僕が恥ずかしくなってしまって、憎まれ口を叩くと離れた。少し寂しそうな顔をしていて、そのことが気になってしまった。  誕生日なのに、そんな顔しないでよ。こういう時って、なんて声をかければいいのか分からない。  僕って基本的に、人に対しての興味がないんだよね。こういう時って、恋人って何をするべき? 「律さんは、その……」 「えっと、どうしたの」  透真くんは何かを聞きたいようだった。だけど……上手く言葉に出せないのか、二人の中に変な沈黙が流れてしまった。
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