48話 世界一、可愛い

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48話 世界一、可愛い

 耳まで真っ赤になっていて、ずっとこっちを見ないし変なの。まあこの人の奇行は、今に始まったことじゃないし。  少しお腹も膨れたことだし、僕はお風呂に入りたかった。そのため、僕たちは個室のお風呂に入ることになった。 「湯船にお湯張って来る」 「よろしく」  彼が立ち上がって、お風呂場の方に行った。立ち上がろうとすると、腰の痛みが一気に押し寄せてきた。  僕が声にならない痛みに耐えていると、いつの間にか彼が来ていた。心配そうに腰を摩ってくれて、少し痛みが和らいだ。 「少し酷使しすぎたな」 「う……痛い」 「しっかり掴まってて」  彼がひょいっとお姫様抱っこしてきて、脱衣所の方に連れて行ってくれた。優しく浴衣を脱がしてくれて、お風呂場の椅子に座らしてくれた。  メガネを外してくれて、脱衣所の洗面所の所に置いていた。見えないけど、嬉しそうなのは何となく分かった。 「洗うよ」 「いいよ、自分で」 「俺がやりたい」  この人ってなんで、ここまで過保護なのかな。別に自分で洗えるんだけど……。まあでも、嬉しそうに鼻歌を歌っているしいいか。  洗い終わって、僕が先に湯船に浸かった。彼が洗っている所を見ながら、色々と考えていた。  僕って色んな人から女の人に見えるらしい。彼も初めはそう思ったのか、気になってきた。  少し前だとそう思われていたら、嫌だったと思う。今だって、他の人からそう思われていると嫌だと思う。  でも彼にならそう思われていても、嫌な感じはしないと思う。今となっては、一目惚れっていうのが嬉しく感じてしまう。 「律さん、どうしたんだ」 「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」 「その前に、俺も浸かりたい」  彼の言葉を聞いて、それもそうかと思った。腰を庇いつつ、僕は上がることにした。 「じゃあ、あが」 「いいよ。入ってて」 「えっ? 狭いよ」  僕の後ろに入ってきて、僕を後ろから抱きしめてきた。なんか今更だけど、密着していて恥ずかしい。  だけど、これも悪くないなと思ってしまった。それはそれとして、意を決して聞いて見ることにした。 「あのさ、聞きたいんだけど」 「俺が答えれるか、分からないけど」 「初めて会った時に、僕のこと女性に見えたりした」  僕がそう聞くと何やら、少し考えているようだった。やっぱ、思ったりしたのかな……。 「可憐だなとか、可愛いなと思ったよ。だけど、普通に男性だと思ったよ」 「そ、っか……」  なんか人って、思っていたことと違うことを言われると……何も言えなくなるんだなと思った。  可愛いとか可憐とかは、よく分からない。それでも少し嬉しいと、思ってしまった。途端に暑くなって、僕は勢いよく立ち上がった。 「上がるのか」 「うん、先に言ってるね」 「ちゃんと、乾かしてな」  優しいのはいいんだけど、少し過保護すぎない? 湊くんがあんな風に、甘えん坊になったのは確実にこの人のせいだ。 「なんか、お母さんみたい」 「そ、そうなのか……前に、湊にも同じこと言われた」 「なんか、想像がつく」  子供みたいに甘えてくる湊くんを、想像して笑顔になってしまう。推しの小さい時の話とか、写真を見たいなと思った。  僕はルンルン気分で、上がってタオルを体に巻いていた。髪を乾かすのめんどくさいけど、煩そうだから仕方なくやることにした。 「あれ? 虫刺され?」  メガネをかけていないから、よく分かんないけど……首元に赤いものが見えて、僕は眼鏡をかけてみた。  赤くなっていて、目立っていた。まあいいけど、痒くないんだよね。僕はドライヤーを、スイッチ入れたまま持っていた。  すると上がってきた彼に、ひょいと奪われて髪を乾かされた。その間に雑談のつもりで、聞いてみた。 「今年初めて、刺されたよ」 「虫?」 「そう、首元のやつ」 「……あー、痛くないか」  その質問可笑しくないかなと思ったけど、掻くと痛痒くなるよね。まだ痒くないから、痛くもないなと思った。 「まだ、痒くないし。痛くないよ」 「……律さんって、ある意味マジで凄いよな」  どういう意味なのか、分からずに僕は頭に? を浮かべていた。そこで乾かし終わったみたいで、彼が後ろから抱きついてきた。  鏡越しだけど見ると、嬉しそうにしていた。なんか、急に心臓がドキドキしてきた。体の体温が上がっていって、恥ずかしくなった。  腕を切り抜けて、僕は部屋の方に向かった。その後ろをニコニコ笑顔で、着いてくる彼が可愛かった。  ベッドに座って、サイドテーブルにメガネを置いた。すると彼に腕を引っ張られて、抱きしめられた。 「律さん、おやすみ」 「おやすみ」  月明かりに照らされて、彼の顔がいつもよりも綺麗に見えた。彼の腕に抱かれて、甘い香りに包まれて直ぐに眠りについた。  二日目はお土産を買ったりまったりしてから、いつもの日常に戻った。月曜日になって、彼は名残惜しそうに会社に行った。  なんかここ何ヵ月か、半同棲みたいになっている。僕としては一緒にいられて、嬉しいんだけど。 「さてと美容室に行こう」  別に彼に言われたからではなく、そろそろ伸びてきたからだし。髪を切ったついでに、サーモンピンクに染めてもらった。  人生で初めて染めたから、変な感じだけど似合っているかな。その日いつものように、帰ってきた彼が驚いていた。 「可愛い」 「……まあ、お世辞でもうれ」 「お世辞じゃないよ。世界一、可愛い」  抱きついてきて、少し暑苦しかった。それでも早く見て欲しくて、彼の帰りを玄関で待っていたことは黙っておこう。 「次染める時は、俺がやりたい」 「分かったから」  耳元で甘い声で囁かれて、甘い香りが漂ってきた。それだけで、嬉しい気持ちが溢れてくる。  後ろを振り向くと、優しく触れるだけのキスをされた。彼の腕にしがみついて、優しく微笑んだ。  同棲したら毎日、こんな風に過ごせるのかな。それがとても、待ち遠しかった。それはそれとして、やっぱ暑苦しい。 「律さん、好きだよ」 「ぼ……くも」  少しでもこの感情を、透真くんに伝えていけるように頑張ろう。完全に素直になることは、出来ないと思う。  それでも、彼が不安にならないように素直になりたい。彼がくれる愛情を、少しでも返せるように。
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