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5話 知りたい
「先に入ってて、電話してくる」
「はーい」
「待ってるぞ」
「……分かりました」
若干元気のない金城くんが、気になったけど僕は外で電話することにした。駐車場の隅で、邪魔にならないように出た。
「もしもし、凛斗」
「律、今どこ」
「……もう直ぐ家に着くよ」
「そうなのか、行っていいか?」
「ごめん、締め切りが立て込んでるから」
「そっか、また今度な」
「うん、分かった」
そう言って電話を切って、ため息が溢れた。何となくだけど、凛斗には本当のことは言わない方が良さそうだ。
基本的にいい奴なんだけど、どこか僕の行動を制御する節があるから。心配してくれているんだろうけど……。
完全にやり過ぎなんだよな……とは思いつつも、他に頼れる存在はいないし……何故か、昔から凛斗以外の友達とは上手くいかないんだよね。
そう思って壁に寄りかかって、ため息をついていた。それにしても五月とはいえ、流石に夜は寒いな……。
そう思って両腕を擦っていると、スーツの上着を肩にかけられた。この匂いは間違いなく、金城くんの匂いだ。
「宮澤先輩……寒いので、電話が終わったのなら入りましょう」
「……分かってるよ」
「風邪引くといけませんよ」
「煩いな! 放っておいて!」
「すみません……」
僕が大きな声を出すと、金城くんは落ち込んでいるようだった。変な奴……何もないような感じ出しておいて。
今度は心配しているようだった。お願いだから、僕のことなんて放っておいてよ。もう誰も好きになりたくない。
「返す……後、あの二人には帰ったって伝えておいて」
「あっ! 宮澤せんぱ……」
上着を返して僕は、金城くんの顔を見ずにその場を後にする。自分でも、最低だって分かってる。
只の善意で優しくしてくれているのに……それなのに、冷たくするなんて……僕って嫌な奴だ。
僕が悪くないのに、一方的に悪者にされた。しかも当時本当に、好きだった初めてできた恋人に……。
今回のこととそのことは、関係ない……もちろん、金城くんが悪いわけじゃない。寧ろとてもいい人で、善意しかないのだろう。
「はあ……つくづく、自分が嫌になる」
夜の街に僕のため息と、涙が消えていった。次の日。お昼頃まで寝ていて、気晴らしにアニメショップにグッズを買いに行った。
今日は土曜日。月曜日からヒート休暇だし、色んなものを買わないとね。グッズが終わったら、食料も買いに行かないと。
今年の夏の同人即売会、何のアニメにしようかな。それともオリジナルでもいいな……今回は、書いたことないけどαとΩの恋愛にしようか。
戦隊ものや学園もの、それとも……そんなことを考えながら、漫画やグッズを買っていた。
「オリジナルにするにしても……」
今回はBLにしようかな……基本的に、αは書いたことがない。会社の部下と上司の、下剋上とかも捨てがたい。
そんなことを考えながら、歩いていると急に後ろから抱きしめられた。微かに香ってくる甘い香り。
もしかしなくても、金城くんだろう。えっ……どうして? 混乱してしまって、何も言えないでいた。
「か、かなし……ろくん」
「宮澤先輩」
耳元で呟かれて、くすぐったくなった。後ろを向いて、遠ざかろうとすると今度は前から抱きしめられた。
こんな道の往来で、何考えてんだ! そう思って見上げると、端正な顔があって今回の主人公の相手役にぴったりだと思った。
そ、それはそれとして……いつまでこの体制でいるつもりなんだよ! 周りからは変な目で見られるし。
甘いこの香りに体が反応して、かなりヤバい……明後日からヒートだし……クラクラしてきた。
「な、何を」
「あの、信号赤ですよ。危ないです」
「へ? あっ、ありがと……」
金城くんに言われて、信号を見ると赤信号だった。その直後、青信号になったから僕は慌てて離れた。
きっと間違いなく顔が真っ赤になっていて、僕は慌てて顔を右手で隠した。すると何故か急に腕を掴まれて、ドンドンと歩いて連れて行かれた。
振りほどかなくちゃ……そんなに強く握られているわけじゃない。きっと振りほどけると思う。
「宮澤先輩、いいとこ知ってるんで」
でも腕から伝わってくるこの熱を、失いたくなかった。横を歩く金城くんは、何を考えているのか……。
ーーーー知りたい。
この人のこともっと、知りたい……この感情の意味なんて、一つしかないじゃん。僕もう二度と、恋なんてしないって思ってたのに……。
そう思って俯きながら歩いていたけど、急に立ち止まった。僕に優しく微笑んでくれて、その笑顔にキュンとする。
「着きました」
「えっ……ここって」
金城くんに連れて来られたのは、小さなカフェだった。中に入ると店員さんの、元気な声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ〜」
「ここは……」
「俺の行きつけのお店です。宮澤先輩は何を飲みます?」
キラキラな笑顔で微笑むもんだから、直視できない。自分の気持ちを、自覚したばかりでこれは心臓に悪い。
「あっ、えっと……アイスココア」
「具合が悪い時は、ココアは止めた方がいいですよ。紅茶は飲めますか?」
そのため直視出来ずに目を逸らして、吃りながら答える。すると腕を離されて、熱が店内の冷房でなくなってしまう。
「あっ、うん。大丈夫……」
「分かりました。オレンジジュースと、ルイボスティーでお願いします」
僕の分も注文してくれているようで、財布を取り出そうとした。すると優しい声色と、瞳で言われた。
「ここは俺が出します」
「で、でも……ここは年上の僕が」
「給料入ったばかりなんで、カッコつけさせてください」
キラキラな笑顔でそう言われて、何も言い返すことが出来ない。それと同時に、さっき具合悪い時って言ってなかった?
どういう意味だ? 僕どこも悪いとこないんだけど……そんなことを考えていると、飲み物が出来たみたいでテーブルに移動する。
促されるままに座って、飲み物を口にする。飲みやすくて火照った体に、染み込んできて美味しい。
「どうぞ。ここは飲み物以外も、美味しいのでおすすめです」
「ありがと……あのさ、僕のどこ見て具合悪いと思ったの?」
「えっ? 顔が赤かったので、熱中症だと思いまして」
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