ほんとうのはなし

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空気がいつもと少し違う。 教室に入ってすぐ、タロウはそのことに気がついた。 碌におはようも言わず、クラスのみんながある一つの話題で盛り上がっている。 真言(まこと)小学校四年二組の石江太陽という生徒が、三日前から家に帰っていない。警察が捜索をしているが、手がかりさえ見つからないという。 そんな状況であるにも関わらず、真言小学校は休校にならないどころか集団下校の措置すらとっていない。捜索もそろそろ打ち切られるだろう。 石江太陽がいなくなったのは誘拐などではなく、彼の自業自得だと誰もが思っているからだ。 嘘をついてはいけないよ。 嘘つきは、怖い鬼に連れていかれてしまう。 真言島では昔から言い伝えられていることで、島のみんながそれを信じて守ってきた。 だから大人は生まれてくる子供たちに「ありがとうやごめんなさいをちゃんと言うこと」よりも先に「絶対に嘘をつかないこと」を教えた。 大人も子供も老人も。この島の者は皆、本当のことしか口にしない。 当然真言小学校にも、嘘をつくような生徒はいないはずだった。 石江太陽は嘘をついた。 だから鬼に連れていかれたんだ。 きっともう帰ってこないだろう。 しかたないよ。 当たり前。これは当たり前のことなんだ。
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