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大丈夫。碧はまだ子供で、その上いかにもこの島の住民らしい正直な性格だ。父親である鉄彦の言葉を疑うわけがなかった。
(俺が今から死体を捨てに行くなんて、知る余地もない)
嘘をついたらいけないんですよ。おじさんも知ってるでしょう?
そうですよ。だから僕たちは空くんにほんとのことを言っただけなんです。
脳裏に刻み込まれてしまったあの憎い顔が浮かんで、ハンドルを握る手に力が入った。
(あいつらはとっくに死んだんだ。俺が殺したんだから)
思い出したくもないが忘れることも許されない、鉄彦が生涯憎むべき彼らの顔。
四年前の冬、最愛の息子だった長男の空が自殺した。裏山で首を吊った状態で見つかった。
調べると、空はクラスメイトの二人に毎日のように「うざい」「キモい」「死ね」と暴言を吐かれていたことが分かった。
嘘を言ってはいけないという真言島の決まりを盾にして。
二人が空を殺した。
それなのに。
「空くんは嘘をついたから、鬼に連れていかれてしまったんでしょう」
警察にまでそう言われた時、鉄彦の中で何かが壊れた。
黙れ。空がどんな嘘をついたというんだ、言ってみろ。クラスメイトのでたらめな証言なんかを真に受けやがって。
そいつらみんな嘘つきじゃないか。何がほんとのことを言っただけだ、空をいじめていただろう、いじめていたと言え。鬼に連れていかれるっていうのも嘘に決まってる。それなら、なんで空を殺したヤツらが鬼に連れていかれない。
そうだ、俺が殺せばいいのか。
そのでたらめな言い伝えを、利用してやることにしたのだ。
やはり簡単だった。空をいじめた二人を殺して裏山に捨てた。警察は碌に捜索もせず、結局「彼らは嘘つきだったのだろう」 ということで終わった。
それから鉄彦は、この島でいじめをしている全ての人を殺すことに決めた。
もう二度と誰も、空と同じような苦痛を経験しないために。
鉄彦が運転する車のトランクには、石江太陽の死体が乗っている。三日ほど前に学校から帰っているところを攫い、軽く頭を殴って大量の睡眠薬を飲ませた上で手足を縛って顔にガムテープを巻いてトランクで放置していたのだが、今朝確認すると完全に動かなくなっていた。
石江太陽という生徒のことはよく知らなかったのだが、並んで歩いていた友人らしき生徒に暴言を吐いているのを偶然見かけて、殺さなくてはと思った。
裏山に着いた。
(簡単だ)
もう少し進んだところに穴を掘ってあるから、いつも通りそこに捨てるだけだ。
しかし。
トランクを開けて見えた死体の綺麗さに、無性に腹が立った。
鉄彦は死体を乱暴に地面に落とし、何度も何度も体を蹴りつけ、近くにあった石を拾い、何度も何度も顔を殴りつけた。
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