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裏山へと向かいながら、タロウは今日の学校でのことを思い出していた。
(だから、鬼なんていねえっつーの)
去年この島に引っ越してきたタロウには、絶対に嘘をついてはいけないという島の決まりの重要さがいまいち理解できなかった。
(だいたいこの島に来る前は嘘なんか当たり前のようについてたし)
この前の四月一日も、タロウは嘘をついていた。いくら嘘をついてはいけないといってもエイプリルフールくらいは許されるだろうと、あることないことをたくさん言ったのだ。
この島はおかしい。早く大人になって東京へ帰りたい、とタロウは強く願った。
裏山に着く。裏山の上から見渡す町並みは綺麗だ。
タロウは真言島が大嫌いだが、それだけは好きだった。
帰りが遅くなるとおじいちゃんに叱られてしまうが、絶景なら夜に限る。
不意に、大きな音が聞こえてタロウはそちらへ視線を向けた。
直感で、まずいと分かる。
ひん剥いた目を血走らせ、荒い息で人らしきものに何度も襲いかかる──
あれは、鬼だ。
本当に鬼はいたのだ。
次の瞬間、鬼と目が合ってしまった。
鬼は、タロウ目掛けて走ってくる。
タロウは自分の短い人生の終わりを悟った。
ああ、俺は嘘つきだから。
鬼に殺されてしまうんだ。
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