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「あの……みなさん? さっきから、歌のない曲ばかり挙げていますけど、そんなに歌いたくないんですか?」
私は生徒たち全員に向かって尋ねた。
「だってさあ……」
「好きなものは好きだから、しかたがないです」
「歌がないのなら、楽器の演奏だけにすればいいんじゃないですか?」
口々に言う生徒たち。中でも、楽器の演奏だけにすればいいという発言にはカチンときた。
「あのねえ! 合唱はみんなで歌を歌うから、合唱というの! だから、歌がないといけないの!」
つい、声を荒げてしまった。ついでに、教卓をバン! とたたいてしまった。
「先生」
「なんでしょうか、Aくん」
「ぼくたちは先生がなんでもいいと言ったから、好きな曲を言ったんですよ。それなのに、みんなだめとは、どういうことですか? うそ言わないでください」
確かに私は「なんでもいい」と言った。けれども、歌のない曲ばかり挙がるとは、想定外だった。
「……ごめんなさい。私が悪かったです」
さっき、声を荒げて教卓をたたいた私だったが、嘘ついてしまったことには違いないので、謝るしかなかった。
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