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「先生の格好はともかく、このバンドの曲、いまいち魅力を感じないんですよね」
「どういうことですか? Fさん」
「なんといいますか、流行に乗っかっていますという感じがしてならないんですよね。昔の言葉でいうとミーハーでしょうか。他の動画も見てみましたけど、ロックやポップスばかりで、いかにもその辺に転がっていそうな感じです。歌詞も恋愛のこととか、ありきたりの内容ですし。まあ、頑張って作った曲を、上手に演奏していることは認めますけど」
「……そう」
プロに及ばないことはわかっている。及んでいたら教師なんてしていない。けれども、私たちなりにいろいろ工夫している。時には変拍子にしてみたり、テンションノートを使ってみたり、あるいは教会旋法を取り入れてみたり……
「それで、先生」
「なに? Fさん」
「あたし、こういう曲が嫌いです」
「えっ」
頭の中が真っ白になった。
「歌番組の司会者やテレビ局のスタッフが、みんなこういう曲が好きでしょうとか、巷ではこんな曲が流行っていますとか言っていそうな曲、チャラい人たちがカラオケで笑いながら歌っていそうな曲、世界は自分を中心に回っていると考えていそうな人たちが、カラオケで歌いたくない人たちに無理やり歌わせそうな曲……」
「…………」
「あたしは、そんな曲が大嫌いです。先生も、そちら側の人間でしょう? 流行りの曲を聴いたり、歌ったりして喜んでいそうな人たち。動画を見て、一目でわかりました」
醒めたような顔をしながら話したFさん。私は彼女になにも言うことができなかった。
彼女はまだ小学五年生。今までどういうことを見聞きして生きてきたのだろうか。カラオケで歌を強要されて嫌がった人が、身内にいるのだろうか。あるいは、好きな音楽にスポットライトが当たらないことに不満を抱いているのだろうか。それとも、マジョリティ特有の無意識な傲慢さに嫌気が差しているのだろうか。
それもあるけど、私たちが作り、演奏した曲を否定されて、胸をかきむしられたような気分になった。
「先生、泣きそうな顔してるぜ」
そんな声が聞こえてきたような気がした。
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