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脱力の極みで背もたれに凭れる俺に「……僕も悪かった」と謝罪する男。
「周りのそういうところが嫌でここに逃げてたのに、僕も一瞬出ちゃったから。本当はただ一人になりたいだろうなと思って出ようとしただけで」
「あ、ああそういうことね。まぁ、お前は話しかけてくれたから不問!」
「でも、傷付けた」
「うぉっ」
コイツは自然流れで隣にいる俺の手を包む。
「ずっと握り締めてたんだろ。新品なのに、くしゃくしゃ」
それから今度は流れるように俺を抱きしめた。まだ名前も知らない友達にしては距離の詰め方が異常に速くて体が跳ねる。
だが、それがなんだというのだろう。
コイツだけは許さないとバチが当たる。
「僕が一人目の友達になる。だから、もう寂しくねぇ」
「いいのか。さっきから名前知りたくてうずうずしてたんだけど……迷惑じゃねぇ?」
こんなに優しい奴が俺の一人目の友達……。
「全然迷惑じゃねぇよ、鹿毛 渉君」
「ん? 何て?」
俺を抱きしめるコイツが阿良々木 風雅だと知れたことに感動して、狡猾な笑みを向こう側で溢していたことなど毛ほども気付かないのだった。
それからあっという間に仲良くなった阿良々木に、髪を切ってみれば、という何気ない一言によって、今の阿良々木が急速に出来上がった。
それに伴って、心なしか言葉遣いもより強制力を生むような言い方になり、行動だって割と強引になった。
だが、阿良々木の優しさは今も昔も変わらず。
だから、明らかに好意を寄せられていると気付きながらも、俺はなあなあで許してしまうのだ。
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