1編「転校」——カースト上位のド執着攻め×才能を潰された強がりセッター——

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1編「転校」——カースト上位のド執着攻め×才能を潰された強がりセッター——

——side:鹿毛 渉(かげ わたる)——  桜も散りきって新芽が出始める季節。  新学期が始まってから早1ヶ月が過ぎようとしていた。  午前の授業が終わり、弁当を手に慣れない足取りで教室を出る。  俺はこの春転校したが実のところ、教室と職員室、それから化学準備室以外はどこに何があるかも分からない。  だが、そんなことは大したことではない。 「渉、教室で待ってろって言ったのに」  他にも生徒が歩いているのに、目を引く容姿と通る声で俺を呼ぶ。 「ごめん、教室に居づらくてすぐに出て行く癖が抜けないんだよな」 「……アイツらもくだらないな」 「フッ、本当にな」 「じゃ、いつものとこ行くか」  そういって俺の腰を抱き寄せながら歩く圧倒的存在感を放つ阿良々木 風雅(あららぎ ふうが)。  クラスの違うコイツだけは唯一俺と会話をしてくれる貴重な存在。今向かっている化学準備室がまさに出会いの場所であり、二人だけの空間になった俺の好きな場所。  しかし、俺が隣にいるせいで周りから敬遠され目も合わせようとされないのを間近で見ると、どうしても罪悪感が勝りそうになる。現に男が男の腰を抱いていても誰も気にしない。  きっと俺がいなければ、女子からの誘いも引く手数多だろうし、男子からも一目を置かれ人気者として皆の輪に入っていけたかもしれない。  そう思わせるほど、阿良々木の素顔は眉目秀麗で見る人の心を射抜くような鋭さを持っていた。  これは阿良々木と話していくうちに俺が気付いたことで、それまでは重たい前髪から目を覗かせ、覇気のない顔をしていたのだ。俺自身、転校して初めて話した奴がここまで高スペックだと、善意全開で阿良々木のイメチェンを提案したことが少し恨めしい。  そうして人通りの少ない道を行きながらついた化学準備室。  立て付けの悪さを我慢しながらドアを開けると、俺と阿良々木の好きな本や漫画に囲まれた空間が出迎える。 「ふぅ……ようやく落ち着ける」  思わず溜息が溢れる。 「今日も午前中頑張ったじゃん。偉いぞ〜」 「うわっ、それやめろよ〜。髪ぐちゃぐちゃじゃん」 「可愛いから問題ねぇよ」 「んだよ可愛いって」  真隣にパイプ椅子を並べて座る阿良々木。  その間も俺のどこかしらを触り続ける過保護ぶり。  ——と言いたいところだが、「やっぱ俺の上に座れ」と言ってくるあたり、部活ばかりしてきた俺にもおおよその見当がつく。かといって無碍にすることもできないので、結局阿良々木の望むままにしてやる俺がいる。 (ここに来るまで人通りの少ない道を選んでなるべく視線が気にならないようにしてくれるし、授業以外はほとんど俺といてくれるし、見た目が多少いかつくなったって根本は優しいんだよなコイツ)  「なぁ、5限目何?」男にしっかりと体重を乗せ座られている阿良々木は満足げに聞いてくる。 「あー……確か体育だったはず」  自分で言ってて体がだる重くなる。 「サボろうかな」 「あっそう、じゃあ俺も」 「阿良々木のとこは何?」 「俺は何だったかな……多分現代文」 「うわぁ、めっちゃ眠くなるやつ」 「渉がサボるんだったらここで一緒に寝るか。どうせ向こうでも寝るしな」 「それはいいな」  だが、男二人が寝そべる程のスペースがここにはない。  俺の考えが顔に出ていたのか、阿良々木は「つってもここじゃ狭いし俺の家に行って午後は完全にブッチしようぜ」といった。  二言返事で了承したが、その間に俺を抱き寄せていた阿良々木の手にぴくりと力が入っていた。
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