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引っ越すたびに置いて行くものがある。
ごめん。置いていくって言い方はずるいね。
捨てる。
捨てられた彼らはペラペラのビニール袋に入れられて、生ごみと一緒にどこかの処理場で燃やされる。
小さいころは知らなかった。
お別れだって思ってた。だって私に与えられたのは段ボール一箱だけだったし。
その中にはいるものだけを持っていきなさいってママに言われてた。
うちは転勤族だった。
絵本。ぬいぐるみ。ニオイ付きの消しゴム。
段ボールの中に入るものはそのたびに変わっていく。ボロボロの絵本はキンドルでみられるからサヨナラした。小さなおうちセットも椅子やお皿がだんだんなくなっていったからサヨナラした。
おばあちゃんがくれた市松人形は絶対に捨てたらいけないやつだから一番最初に箱に入れる。
後は・・・・
誰がくれたのかももう忘れたのに、ずっと捨てられないキーホルダー。くまのゆるキャラがまん丸な目をしてこっちを見るから。
大して場所も取らないし、いつも段ボールに入ってる。
何でだろうね。不思議。
今度引っ越すのは、パパが30年ローンで買った建売だから、これからはパパが単身赴任するんだって。
ねえ、くまちゃん。パパについていってあげてくれる?
パパ、寂しがりだもん。
でも、パパは何にも考えなしに捨てちゃいそうだし。やっぱり駄目だな。
もうちょっと付き合ってくれる?
いつから一緒にいるか覚えてないけど。いつまで一緒にいるかもわからないけど。
ぽとり。
段ボールの底にくまのキーホルダーが落ちる音がした。
私は、きっちりとガムテープを貼った。
またね。
あっちで会おうね。
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