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「お待たせしました、新村……ええと、信二さん」
聞きたくなかった声の登場に、信二は顔をあげた。あっ、と声を上げそうになるのをこらえる。嘘みたいな光景だった。
普段の新村夏美は、大ぶりの眼鏡をかけて、真面目そのものという顔をしている。会社の規定に沿ったヘアスタイル、社会人という言葉の横に並びそうなスーツ、大きなカバン。
しかし今日の夏美は眼鏡をはずし、信二が見ても分かるほど鮮やかな青のカラーコンタクトを入れている。普段はポニーテールにしている黒髪には、金色のエクステが付けられていた。
足を大きく露出した黒のホットパンツに、太ももまでありそうなオーバーサイズの黒いTシャツ。
銀色のアクセサリーに、ヒールのある白いサンダル。
それから。彼女の指を飾り立てる、宝石のごとき美しさのネイルたち。
あっけにとられたまま、信二はなぜか、拍手をしていた。
「え、ちょ、ど、どうしたんですか?」
「……その、に……いいえ、夏美さんがかっこよくて」
苗字が同じだと、やはり名前呼びの方が分かりやすい。信二は思いがけない姿で現れた夏美に、心底、感動していた。
「それを言ったら、信二君もカッコいいと思う」
「えっ!?」
「いや、びっくりしたよ。まさか、白いカンカン帽に麻の着物なんて思わなくて……」
顔を見合わせた2人は、暑さに負けて木陰に向かった。
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