これが私達には相応しい

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これが私達には相応しい

 花嫁の支度が整ったとの話を聞いて、ロイはノックをしてから新婦控室のドアを開けた。そして一人座っている花嫁の姿を認め、軽い眩暈を覚える。 「……おい、何だそれは?」 「あなたこそ、人の事を言えるの?」  多分に呆れを含んだ声での問いかけに、些か憮然とした表情でエリザベスが答える。彼女が身にまとっているウエディングドレスの色は真紅であり、アクセントに縁どられているレースやリボンは黒。手にしているブーケまで真紅の薔薇に黒のリボンときては、普段豪胆さで名を轟かせているロイも、さすがにコメントに困るありさまだった。 「確かに、お互い好きなように仕立てると言ったがな。よくもまあ、そんな色でウエディングドレスを仕立てられたものだ。依頼した店の者達に、何も言われなかったのか?」 「確かに色々言われたわよ? 『ウエディングドレスは白と決まっています!』とか『こんな色でドレスを作るなんて、教会に対する冒涜です!』とか、果ては『こんな色で挙式するなど、天罰が下りますよ!』まで言われたわね」 「それなのに、良く作れたな」 「簡単だったわよ? あなたとの結婚式で着ると言ったら、皆、途端に黙って最短日程で作ってくれたわ。素人さんでもあなたの名前を知っているとか、正直驚いたのだけど。きっとこれがあなたの趣味だと思われて、これを拒否したらどんな報復を受けるかと勘ぐって、慌てて作ってくれたのね」 「笑って話す事ではないと思うがな……」  当時のやり取りを思い出したのか、エリザベスがくすくすと笑い出す。それを見たロイも、思わず笑いを誘われた。 「だって、ねぇ……。そもそもウエディングドレスの白って、あなたの色に染まりますという意味でしょう? もうとっくに、あなたの色に染まっているものね?」 「それで、赤と黒?」 「違う?」 「違わない」 「そうよね。だって現に、あなたも赤と黒だし。あなたの事だから、全身白にする筈がないとは思っていたけど」  もはや苦笑するしかできないロイだったが、ここでエリザベスは笑いを収めて真顔で尋ねてくる。 「上下とタイが黒なのはまだしも、中のシャツとポケットチーフが真紅ってどうなの? それこそ、揃えた店の人が何か言わなかったの?」  その疑問に対し、ロイは面白がるように問い返す。 「うん? 私に正面切って物申す、命知らずの素人がいると思うのか?」 「……いるわけないわね。愚問だったわ」 「それでは行くか。そろそろ式の開始時間だ」 「そうね」  ロイが差し出した手に、エリザベスが手を重ねて立ち上がった。そして腕を組み、ゆっくり廊下を歩き出す。そこでロイは、ふと気になった事を尋ねてみた。 「ところでお前の身内は、そのドレスの事を知っているのか? 良く許したな」 「知るわけないじゃない。知られたら祖父と父と伯父達と兄弟が、こぞってあなたを撃ち殺しに来るに決まっているもの。祖母と母と伯母達と姉妹はお腹を抱えて爆笑するだけでしょうけど」  事も無げに言い返された内容を聞いたロイは、僅かに顔を引き攣らせた。 「あのな……。式の真っ最中に修羅場になっても困るんだが」 「そうなったらあなたのお友達の皆さんに、なんとかして貰えば良いわよ。そのつもりで呼んだのではないの?」 「……そうだな。祝儀に上乗せして、連中に一働きしてもらうか」  不思議そうに見上げられたロイは、苦笑を深めて頷く。  ああ、確かに。これが俺達には相応しい……。  改めて傍らの伴侶と自分の装いを見下ろした彼は、しみじみとそんな事を考えながら挙式会場の礼拝堂に足を踏み入れたのだった。
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